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 あの後、朱雀文官が来て書類を受け取り私たちの任務はこれで終わりかに思えた。


『聞こえるか?メイ、ナギ』


 任務は終わったはずなのに無線が入り私たちは顔を合わせる。


「…はい」
『機密文書の件はご苦労だった。終わったばかりで悪いんだが、ナギは別の件でこちらに戻ってやってもらいたいことがある』
「はぁ!?」
『急ぎメイは336中隊と合流し、援護を頼みたい』
「え」
「ちょ、待てよ!なんでメイは援護に回るんだよ!さっきまでここで任務だったじゃねぇか!」
『人手が必要なんだ。1人でも多く援護に回ってほしい。ナギはすぐ魔導院へ戻ってくるように、以上だ』
「いや、待てって、おい!」


 ナギの制止もむなしく無線は切れてしまった。歯を喰いしばり拳を作るナギに私はナギの手を取る。


「ナギ、私なら大丈夫だから。ナギは気を付けて魔導院に戻って、ね?」
「……メイも連れてく」
「は…?」


 ナギは無理矢理私の手首を掴み一緒に魔導院へ連れ帰ろうとする。もう19になるというのにまるで駄々をこねる子どもみたいだ。私はナギの手を優しく振りほどきナギを落ち着かせるように諭す。


「ナギ、私なら大丈夫だから」
「………」
「心配しすぎだよ。もっと私を信じなさい!ね、絶対帰ってくるから」
「………」
「…魔導院で待ってて」
「………わかった」


 絶対だぞ、そう念をおしナギと私は別れた。私はナギの背中が見えなくなるまで見送り、その後無線で336中隊へ連絡をとる。

『こちら336中隊』
「…コハル?」
『!メイか、どうしたんだ?』


 336中隊にはコハルがいる隊だったのか。私は事情を伝えコハルと合流する。
 もうすぐ作戦が始まろうとしていた。


「そうだったのか。任務ご苦労様」
「ありがと。でもまさかこっちの作戦にも参加するとは思わなかったけどね」
「そうだろうな。全く人使いが荒い連中だ…今に知ったことではないが」


 私はコハルと談笑していると突入の合図が送られてきた。コハルは無線を繋ぐ。


「こちら336中隊だ。これより攻略を開始する」


 そう言うと336中隊がトゴレス要塞へと侵入していく。もちろん私もコハルと共にトゴレス要塞へと入っていく。皇国軍と交戦する中、ガーディアンが出現し朱雀軍は混乱してしまい追い込まれてしまった。
 そんな中私とコハルは中枢部に侵入しサンプル保管所へと辿り着く。どうやらここで0組と合流しコハルが持っている軍神許可証を取りに来るらしい。私はサンプル保管所を見渡す。先ほどの任務でここを通ったがやはりどこか違和感を覚える。ここはどうも居心地が悪い。


「メイは後悔しているか?」
「え?」
「候補生になったことだ」
「…どうしたのコハル」
「私は後悔していない。朱雀のため、朱雀の民のために死ぬのならこの命惜しくないと思ってる」
「………」


 急にどうしたのだろうか。私は口を開こうとした時、回廊から足音が聞こえてきた。一応攻撃体勢に入るが、姿を現したのは皇国兵ではなくジャックとエースと確かレムさんという子の3人が現れた。
 私に気付いたエースがなんでここに、と言いたげな表情をする。


「メイ?どうしてここに…」
「どうも、エース。私は336中隊の援護として、ね。ここまでご苦労様」
「メイ!会いたかったよぉー!」
「うん、ジャックは落ち着こうね」


 ジャックが抱き着いてこようとしてきたため、それを華麗に避ける。私のことを知らない子がいるため一応自己紹介を始めた。


「えーと…初めまして、だよね?」
「あ、はい、そうですね…私はレム・トキミヤです」
「私はメイです。よろしくお願いします」


 軽く会釈をする。レムさんは初めましてだと思うけど、私からしたら初めましてではない。任務で一応顔を合わせていたのだから。
 ジャックに他の子は、と聞いたら外で待機してるよと答える。どうやら内部に侵入する際は少人数で行動するようにしているらしい。自己紹介が終わるとコハルがエースにある物を差し出した。


「それで軍神の召喚が可能だ」


エースがそれを受け取った瞬間。


「!メイ!」


 突然ジャックに腕を引っ張られる。するとすぐ後ろから爆発音が聞こえると共に爆風が私たちを襲った。
 ゆっくり目を開けると目の前はジャックの制服でいっぱいになっていて、顔を上げるとジャックが笑って大丈夫?と呟く。私は慌ててお礼を言いジャックから離れ後ろを振り向くと倒れている1人の候補生が目に入った。確かあの人は。


「…コ……ハル…?」


 口にしてハッとなる。私は何を口にした?今呟いたのはあの候補生の名前…?
 ジャックは心配そうに私の顔を覗く。


『研究用モンスターの逃走を確認。処分を許可する』
『次の任務クポ!牢屋から逃走した研究用モンスター、ショウキを撃破するクポ!』
「!」


 爆発したせいでショウキが牢屋から出て来ると、爆発音に気付いたのか回廊から来たのか皇国兵まで現れ、私は我にかえり応戦する。皇国兵に攻撃を仕掛けながら、あの候補生の子へと目を配った。
 ショウキと皇国兵を片付けた後、私はもう死んでいるであろう候補生へ近付く。


「………」


 亡くなっている候補生の顔を見て頭の中に何かがよぎった。それがなんなのかわからない。けどもしかしたらこの候補生との思い出かもしれない。
 私が呟いたのはきっとこの候補生の名前だ。コハル、この候補生はコハルという名前だったのだ。
 私はその場で手を合わせ目を瞑ると、冷たいものが頬を伝った。


「…後悔、してないよ。コハル」


 なぜこの言葉が出たのかはわからない。けれどどうしてか伝えなきゃいけない気がした。
 私は頬を拭い振り返る。そこにはジャックだけが残っていた。


「…レムさんとエースは?」
「2人には先に行ってもらった。僕はメイと一緒に行くからって伝えておいたよ。こんなとこに置いていけないしねぇ」


 そう言うとジャックは行こう、と手を差し出すが私はそれを叩き落としサンプル保管所を後にした。