210




「貴様は自分が何者か知っているか?」
「貴様がどう選択するかがこの行く末の鍵となろう」
「…貴様もなるべき人間だったんだがな」

「未来を予測したところで、その通りに上手く事が運ぶわけではありません。…確かにあの方たちはわたくしが視た最後の歯車であることはかわりないのですが、あなた次第でわたくしの視た未来よりも、より良い未来を築けるかもしれません」

「クリスタルが生まれし時から我らは主を見守り続けていた…刻が来るその時まで」
「我らは如何なる時も主の力となろう。主次第でこの定めを光へと導かん。それが…クリスタルの言の葉」

「…いつかわかります。ただ私から言えることは、あなたにあの人たちを救ってほしいから」
「そう、輪廻を繰り返してきた、あの人たちを」

( 時 は 近 い )
( 光 は 我 々 の 願 い で あ り 希 望 で も あ る )
( 長 年 の 歳 月 を 経 て 光 は よ り 輝 き を 増 し そ の 刻 を 待 ち 続 け た )
( 6億10万4972回 繰 り 返 さ れ た 世 界 そ し て 1000年 の 輪 廻 を 繰 り 返 し た 魂 を 呪 縛 か ら 解 き 放 つ た め に 光 は 生 ま れ た )
( 代 償 は そ の 光 自 身 )
( 選 択 肢 は 光 に 委 ね ら れ よ う )

( ど ん な 選 択 に な ろ う と も 我 ら は 光 と 共 に )
( 悔 い な き 一 生 を 願 う )

「私にはお前たちが、決められた道筋の上で歩かされているように見える」

「大丈夫」
「僕らは、死なない」




 今までのことが夢の中で走馬灯のように蘇る。私の存在の意味、0組の存在の意味。ルシのこと、モンスターのこと、身体の傷のこと。まだまだ沢山の謎が残されている。それを私は解明して、クリスタルやルシたちの願いを代わりに叶えなければならない気がした。


 夢から覚めた私の目に最初に映ったのはトンベリの姿だった。トンベリは既に起きていたようで、丸い目で私の顔を覗き込んでいる。


「おはよう」
「…………」


 そう言うとトンベリは私の頭に手を置く。何がしたいのかと首を傾げながら、身体を起こそうとするも全く起き上がれない。首から下は金縛りにかかったように動かなかった。
 昨日魔力を随分使ったその反動かも、と溜め息をつく。


「よく眠れたかしら?」
「!?」


 部屋に響くドクター・アレシアの声に私は目を見開き、声のしたほうへ目線を向けるといつの間にいたのかドクター・アレシアが私を見つめていた。どうしてここにいるのか、いつからいたのか、覚醒していない頭の中で疑問がぐるぐると回る。そんな私にドクターは口を開いた。


「まだあなたは自分が何者なのかわかっていないようね」
「え…?」
「私も、あなたを異質な存在として今までに幾度となく見てきたけれど、結局正体はわからぬまま…。あなたは、何を考えているのかしら?」


 スッと目を細めるドクターに私は顔をしかめる。"異質な存在"と言われて良い気分になるわけがない。まるで"化物"と言われているようで、気分が悪い。
 それにしてもドクターの言う正体はわからないまま、とはどういうことなのか。ドクターが私の正体を知りたいと思っている?でも、それはどうしてだろう。


「…何も考えていません」
「そう…まぁいいわ。あなたはあの子たちの魂を高められる存在。その役割を果たすまでがあなたの寿命なのを覚えておくのね」
「はぁ…?」


 魂を高められる存在とか、私の寿命のこととか、本当に意味がわからない。0組のために私がいるとドクターは言いたいのか。
 ドクターは表情を崩すことなく鋭い目付きで私を見る。生気も感情も何も感じられないまるで機械のような目に、私は背筋が凍った。目の前にいるのは本当に人間なのだろうか。


「いずれわかるわ」
「……あ、なたは、何者なんですか…?」


 何とか声を振り絞り、ドクターに問い掛ける。私の問いにドクターは口元を微かにあげた。


「…そうね、あの子たちがアギトになれるかどうか見届ける者、で納得できるかしら?」
「あの子たち?0組の、ことですか?」
「そう。今まで育んだ魂、つまりあの子たちがアギトになれるかどうかは【フィニスの刻】が訪れた時に決まる。それを見届けるために、私がいるのよ」
「【フィニスの刻】…?」
「いつか来たるその刻が来るまで、あの子たちをよろしくね」
「は?ちょ、まっ…」


 そう言ってドクターは私の部屋から出ていった。ドクターが部屋から出た瞬間、金縛りのように動かなかった身体が解放される。動くようになったのを確認した私は、勢いよく起き上がり部屋の扉を開けてドクターを追おうとした。しかし廊下にドクターの姿はない。
 歯を食い縛る私に、トンベリが不安そうな顔で私を覗き込む姿が目に映る。


「トンベリ…」
「…………」
「…うん、大丈夫」


 トンベリを抱き上げるとそのまま抱き締める。ドクターの言葉が不安で考えれば考えるほど胸が苦しくなった。