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出ていくカヅサさんを見送り扉が閉まると、辺りは静まり返る。ホッと息を吐く私に、ジャックが振り返った。
「僕らも帰ろっか」 「うん…」
私に手を差し出すジャックに、ちらりとジャックを見上げる。ジャックは微笑みながら首を傾げた。その姿が誰かと重なる。誰だろう、そう思ったときジャックが私の名前を呼んだ。
「メイ?」 「え?」 「大丈夫ー?ボーッとしてたけど…」
心配そうに顔を覗き込んでくるジャックに、私は首を横に振りジャックの手をとって歩き出した。
「さすがに今日は疲れたかも。早く部屋戻ろう」 「う、うん!」
ジャックを引っ張るように歩き、部屋に戻るため訓練塔の扉を開けた。
部屋まで送ると言って聞かないジャックに、仕方なく送ってもらう。魔導院内は朱雀の勝利を喜ぶ人たちがお祭り騒ぎで盛り上がっていた。 ジャックと私は魔法陣で寮へ移動し、私の部屋に続く廊下をゆっくり歩く。
「今日は疲れたねぇ」 「…そうだね」 「…あ」 「ん?」 「今日僕誕生日だ」 「………」
ジャックはそう言って、私の顔を覗き込む。いつも以上のにこにこ顔のジャックに私はうっ、とたじろいだ。こんなときに思い出すなんてタイミング良すぎだろう。
「た、誕生日、おめでとう…」 「えへへぇ、ありがとうー」
嬉しそうに笑うジャックに、私もつられて笑う。ふとジャックのために買った小包が頭に浮かんだ。この一戦が終わって部屋まで送ってくれる今が渡すチャンスだろう。そう思ってジャックに話しかけようと口を開いたときだった。
「あれ?メイの部屋の前、何かいる?」 「え?」
そう言いながらジャックが指をさす先に目を向けると、確かに私の部屋の前に、何かが佇んでいた。その背丈は人間より遥かに小さい。段々部屋に近付いていくとその正体はすぐにわかった。
「トンベリ…?」 「刃物マニアだぁ」
私とジャックの声が重なる。部屋の前にいたのはトンベリだった。私たちに気付いたトンベリが駆け寄ってくる。反射的に屈んでトンベリを抱き上げると、トンベリは小さな手で服をぎゅっと握った。 ジャックが不思議そうにトンベリと私を交互に見る。
「なんでメイの部屋に?」 「さぁ…」
首を傾げながらトンベリを見ると、トンベリが顔をあげてじっと見つめてきた。その目の奥に、ある男の顔が映ったような気がして、脳裏にカヅサさんに連れていってもらった男の姿がぼんやりと浮かび上がる。その瞬間トンベリの主人が、クラサメ隊長だったことを思い出した。
「…ありがと」 「え?」 「待っててくれたんだって」 「メイをー?なんでまた…」
お礼言う私を不審がるジャックに、誤魔化すようにトンベリが私を待っていてくれたことを伝える。ジャックは納得していないのか首を傾げながらトンベリを覗き込んだ。すると何か違和感を覚えたのか、ジャックが眉間にシワを寄せながら口を開く。
「このトンベリ、0組によくいたような…」 「そう、なんだ」 「誰かに飼われてた気がするんだよねぇ…うーん、誰だったかなぁ」
腕を組み唸るジャックを、トンベリは見上げる。その表情はジャックに自分の主人を思い出して欲しいと願うような、切な気な表情をしていた。その姿に胸がじーんと熱くなる。しかし、ジャックは思い出すのを諦めたのか首を横に振った。
「忘れちゃった。飼い主死んじゃったのかなぁ?」 「…覚えてないならそういうことだろうね」 「そっかぁ、可哀想にねー。でもそのトンベリ、これからどうするんだろう?」 「私が引き取るよ」 「え!?」 「ひとりにしておけないからね」
ね、とトンベリに同意を求めるとコクンとトンベリが頷く。それを見てジャックは不満そうに口を尖らせて、そして溜め息をつきながら肩を落とした。
「ちぇ…もうメイと部屋で二人きりになれないのかぁ」 「ふ、二人きりって…」
ジャックのその言葉に、あの日の出来事が脳裏をよぎる。それはジャックも同じだったようで、ジャックの顔はみるみる赤みを帯びていった。私も顔に熱が集まるのを感じる。 お互い赤面で目を合わせたまま黙り込んでいるとジャックのCOMMから通信が入った。
『おい、ジャック』 「うあ、はいはい!?」 『あ?何焦ってんだオイ?』 「別に何でもないよぉ。で、どうしたの?」 『あぁ、次お前の番だぜコラァ』 「あ、マザーの検診?」 『おう。マザーを待たせんなよ。じゃあな』
ドクター・アレシアの定期検診の順番が回ってきたらしい。ナインの声がCOMMから漏れていて、何故か久し振りに声を聞いた気がした。そういえばナインは蒼龍のほうで任務だと聞いた気がする。相変わらず元気そうなナインに少し笑ってしまった。
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