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 総てが終わった。セツナ卿は空を仰ぎ、風を受ける。目の前に広がる「アレキサンダー」の爪痕を見つめ、そして、後ろを振り返った。
 片膝をたて右手を空に向かって伸ばしている軍服の男が目に映る。その男の後ろには、この大軍神のために命を捧げた候補生たちの亡骸が横たわっていた。目の前にいる男や候補生たちは苦しむ表情をしているでもなく、やり遂げた達成感のようなものが各々から滲み出ていた。


「そうか……これが神意か」


 悟るように呟くセツナ卿の元に、ここに相応しくない翼の音が耳に入る。ゆっくりと顔を向けると、そこにはメイとヒリュウ、そしてもう一人の候補生の姿が、セツナ卿の目に映った。
 メイは眉をひそめながら、セツナ卿へ近付いていく。


「…使命は果たせた」
「セツナ卿…?」


 心配そうにするメイを、安心させるかのように笑みを浮かべる。そんなセツナ卿にメイは、あの短刀を差し出した。


「あの、守っていただいて、ありがとうございました」
「その短刀は…主に授けよう」
「え…」
「主の行く末に、幸多からんことを…」


 メイに向けて微笑みを浮かべ、そう言ったあとセツナ卿は振り返り空を仰ぐ。


「あれから幾星霜……ここが私の……辿り着きし末路か」


 力なく膝をつくセツナ卿に、メイは駆け寄ろうとするもジャックに制されてしまった。


「なんだか……寒いな……」


 その言葉を最期に、セツナ卿の周りが光に包まれる。メイとジャックは目を見開かせてそれを凝視し、光がなくなるとセツナ卿は昇華、クリスタル化していた。
 呆然とするメイとジャックに、ジャックのCOMMから通信が入る。


『ジャック!今どこにいるんだ?!』
「うわわ、え、エース?!な、なんでエースが?」
『今皆と合流したんだ。なのに、メイとジャックだけがいないと皆探していたぞ!COMMも繋がらないし…』
「COMMが繋がらなかったの?僕ら、COMMのスイッチ切ってないはずなんだけど…」
『メイは一緒か?メイのCOMMが繋がらないんだ』
「一緒だよー。大丈夫、すぐ帰るから」
『そうか…。全く、気を付けて帰ってこいよ。あと今日はもう解散したから、またマザーの定期検診のとき連絡する』
「はぁい」


 COMMの通信を切ったあと、メイに視線を向ける。メイはセツナ卿から数歩先後ろにいる一人の男の手を握っていた。ジャックは眉を寄せながらメイに近付く。メイが手を握っているその男は、其処いらに横たわっている候補生とは違う服装を身に付けていた。
 誰だろう、ジャックは首を傾げる。メイの肩が少しだけ震えているのに気付き、肩に手を置いた。


「…メイ?」
「……ジャック、この人…誰だかわかる…?」


 メイは振り向かず絞り出すような声でジャックに問う。ジャックはメイから視線を外し、その男の顔を覗き込んだ。
 藍色の髪の毛に、口元は黒いマスクで覆われている。その男の記憶を辿ろうにも、全く思い出すことができずジャックは首を横に振った。


「ごめん、思い出せないや…この人、死んでるんじゃないの?」
「…手が暖かいの」
「え…?でも僕この人のこと全く知らないんだけどなぁ…メイは知ってるの?」


 ジャックの何気ない問いに、メイは黙ったままで、埒があかなくなったジャックはメイの肩を抱いて口を開いた。


「とにかく魔導院に戻ろう?皆、心配してるよー」
「うん…ねぇ、ジャック」
「ん?」
「この人、連れて行く」
「え?!」


 メイの思いがけない発言にジャックはぎょっとする。メイは立ち上がり、ヒリュウをこちらに呼び寄せると、その男の腕を持って肩に回した。しかし、全身の力が抜けている男の身体はそう簡単には持ち上がらない。
 呆然とするジャックに、メイは声をかける。


「ジャック、手伝って…!」
「わ、わかった…」


 苦しそうに顔を歪めるメイに、ジャックは救いの手を差し伸べる。ジャックが男の腕を肩に回し、そしてヒリュウの背中に乗せた。本当に生きているのか、疑問に思っていたジャックだったが、男を担いだときにその疑問はなくなる。男の身体が生きているかのような温もりをジャックは確かに感じた。
 男をヒリュウに乗せると、メイとジャックもヒリュウに乗る。魔導院に帰る途中、メイはある人物に通信を繋げた。


『メイくん?いきなりどうしたんだい?』
「カヅサさんにお願いがあります」
「カッ…!?」


 メイの通信相手があのカヅサだと知り、ジャックは唖然とする。そんなことはお構い無しにメイは続けた。


「ある人の保護をお願いしたいんです」
『ある人?それは誰だい?』
「…今は言えません。でもカヅサさんにしか頼めないんです…!」


 必死に言うメイに、ジャックはそれをじっと見守ることしかできなかった。