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 嫌な予感がしつつも私たちはビックブリッジに足を踏み入れる。ビックブリッジには魔導アーマーの残骸と、その残骸の上に誰かが立っているのが見えた。その姿に眉を寄せる。
 身体が普通の人よりも倍大きく、その身体には頑丈な防具で包まれている。大柄な男と同等の大剣を肩に担ぎ、私たちの前に立ちはだかった。


「誰だ、あいつ…」
「見るからにやばそうだねぇ…」
「てか、こっち見てるんだけど」


 皆がそう呟くとその大柄な男は魔導アーマーから降りてくると同時に、私たちに向かって駆け出してきた。


「!プロテス!」


 咄嗟に唱えたプロテスを前衛にいたエイトとシンクにかける。プロテスがかかったのは良かったものの、大剣を振り回してきた不意討ちの攻撃を避けきれず、二人は数メートル飛ばされてしまった。その攻撃の威力にサァと血の気が引く。


『ビックブリッジに謎の玄武兵を確認したクポ!このままだと飛空艇が着陸できないクポ!0組は直ちに謎の玄武兵を撃退するクポ!』


 モーグリの通信を聞きながらエイトとシンクに駆け寄る。幸い、大きな怪我はしていなかったが、打ち所が悪かったのか二人は気絶していた。二人にケアルをかける中、背後から玄武兵と戦う皆の声が聞こえてくる。ケアルをかけながら後ろを振り返ると、デュースさんは皆の援護を、セブンとジャックが玄武兵を引き寄せつつ、キングとトレイ、ケイトが少し離れた距離から玄武兵を攻撃していた。
 玄武兵が大剣を地面に叩き付けるとそこに刻印が現れる。


「刻印…?!」


 大剣を叩き付けた場所に刻印のようなものが現れるのが見えて呆然とする。普通武器を叩き付けただけで刻印が出るはずがない。そして刻印はルシの証でもある。あの玄武兵がルシなのかもしれないことに、冷や汗が頬を伝った。
 防御魔法や回復魔法を唱えながら、玄武兵の動きを注視する。一人一人狙うのではなく、無差別に攻撃を仕掛けていた。無差別に攻撃しながらも動きは速く、気を抜けば回復が間に合わない状態だった。
 しかし、あれだけ攻撃を受けているのにも関わらず玄武兵の身体には傷ひとつ見当たらない。セブンがブリザドを唱え、攻撃を仕掛けても玄武兵には全くと言っていいほど効いていなかった。


『ダメだクポ!謎の玄武兵によってすべての攻撃が無効にされているクポ!その鎧は【玄武の鎧】と呼ばれる伝説の防具クポ!攻撃方法を考えるクポ!』
「伝説の防具?!」
「どうりで魔法が効かないわけだ」


 モーグリの通信に各々が渋い顔をする。玄武兵は私たちの反応にニヤリと笑みを浮かべ、剣を振り回した。魔法も技も効かないのであれば、一体どうすればいいのか。
 そんな中、トレイは弓を引きながら口を開く。


「隙をつくしかないようですね」
「隙をつく…?」
「誰しも弱点は必ずあります。魔法が効かないとなれば、相手の弱点を見つけ、己の武器で体力を削っていくしかありません」
「なるほどねー。でもまぁ、とりあえず弱点となる部分を見つけなきゃ、ね!」


 ジャックが玄武兵目掛けて刀を降り下ろす。その刀を腕で受け止めた玄武兵に、ジャックは顔を引きつらせた。


「かったぁー!どんな身体してんの?!」
「ジャック、離れろ!」


 キングが声を上げると玄武兵が剣を振り回す。それが当たる前にジャックは慌てて転がるように攻撃を避けた。今の攻撃が当たっていたらと思うと肝が冷える。ジャックはジャックで気が抜けるような笑みを浮かべて、キングにお礼を言っていた。


「きゃあ!」
「デュース!」
「!デュースさん!」


 デュースさんの声に、私とケイトが反応する。デュースさんは玄武兵の攻撃を避けられずに橋の縁に叩き付けられ、ぐったりと身体が崩れ落ちた。そんなデュースさんを見て、ケイトが慌てて駆け寄ろうとするが、玄武兵がそうはさせまいとケイトの前に立ち塞がる。ケイトは悔しそうに歯を喰い縛り、魔法銃を玄武兵に向けた。


「よくもっ…!」
「ケイト!落ち着け!」


 キングの制止もむなしく、ケイトは魔法銃で玄武兵を撃つ。魔法銃を真正面から喰らったのにも関わらず、玄武兵は仁王立ちでケイトを見下していた。そんな玄武兵を睨み付けるケイトに、玄武兵はポツリと呟く。


「ぬるい…」
「は…?…っ!?」


 玄武兵は腕を振り上げケイトの身体を薙ぎ払う。腕で薙ぎ払っただけなのに、ケイトは吹っ飛ばされ、デュースさんと同じように橋の縁に強く叩き付けられた。苦しそうに顔を歪めるケイトに向かってケアルをかけようとするが、その少し前に魔力が底をついたのだろう、回復魔法を唱えても反応がない。こんなときに魔力がなくなるなんて、と唇を噛み締めた。
 玄武兵はケイトを吹っ飛ばしたあと、ゆっくりと私たちに振り返る。そして今度は一目散にトレイやキングの方へと走り出した。


「(まずい…!)」


 私は小刀を手に、地面を蹴る。ただでさえ分が悪いのに、トレイとキングまで倒れてしまったら私たちに勝機はない。それだけはどうしても避けたかった。
 トレイとキングは向かってくる玄武兵の攻撃をかわすが、玄武兵が大剣を振り回し追撃する。私は攻撃対象を二人から逸らすために、二人と玄武兵の間に飛び込み、大剣を小刀で受け止めた。大剣を受け止めた小刀から手や腕にかけてビリビリと痺れる。


「メイ!」


 ジャックやセブンの声が耳に入るが、今の私に余裕はない。自分より遥かに力のある玄武兵の大剣に、小刀を持つ右手が小刻みに震える。


「…小癪な」
「!?」


 低い声と共に右手が軽くなる。その瞬間、玄武兵は大剣で小刀を振り切った。右手から弾かれる小刀と、その衝撃で身体が吹き飛ぶ。幸い意識が飛ぶことなく、身体が少し痛む程度で済んだ。
 痛みに眉をよせているとジャックが慌てて私に駆け寄ってくる。


「メイ、大丈夫?!」
「…大丈夫」
「無理しないで、後は僕らが…」


 そうジャックが言いかけた時、セブンとキング、そしてトレイの痛手を負う声が聞こえ玄武兵へ視線を向ける。玄武兵の周りに、三人の倒れている姿が目に入った。