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 ビックブリッジに戻るため一度通った野戦重砲陣地に入ると、通信が入ってくる。


『良い所持っていきすぎだぜ、おめぇら。俺らは一足先に戻るぜ』
『前線の生き残りはあたしらだけかね』


 嬉しそうな声と嘆くような声と共に皇国兵の声がしてハッと辺りを見渡した。そこには一度通ったときにはいなかった敵が、私たちを待ち構えていた。


「今は戦ってる暇はない。構わず撤退するぞ」
「そうですね。セツナ卿の召喚がいつ完了するかわかりませんし、ここは交戦は避け撤退しましょう」


 キングとトレイがそう言うと私たちは頷いて、銃撃を避けながら撤退することにした。
 第六八○航空基地に移ると、COMMからノイズ入りの通信が入る。眉を寄せてCOMMに耳を傾けながら足を動かすが、聞こえてきた相手の声に私は自然と足が止まった。


『0組応答せよ。お前たち…魂には…無限…可能性が……お前たちが……道だ。よくやったな』
「あれれ?切れちゃった。なんだったんだろうねぇ」
「クラサメ隊長?何だ一体…?」
「隊長?なんだったんだ今のは?」
「?、隊長はどうしたんですかね?」
「クラサメ隊長?どうしたんだ?」
「んん??ミッション終了で隊長から通信なんてめずらしいねぇ〜」
「聞き間違いかなぁ?今、アタシら褒めてた?」
「もう繋がらないみたいですね……」


 クラサメ隊長の珍しい行動に皆が首を傾げるなか、私は胸がどきどき張り詰めてくるのを感じながら空を仰ぐ。どす黒い雲が私たちを包むように広がっていた。


「メイ…?」


 ジャックが私の名前を呼ぶ声にハッと我に返る。怪訝な面持ちで私の顔を覗き込むジャックに、私は無理矢理笑顔を作った。


「クラサメ隊長、急に何言い出すんだろうね。早く帰投して隊長にもっと褒めてもらわなきゃ」


 ジャックから追求される前に足を動かす。熱くなる瞼を感じながら、皇国兵からの銃撃を抑えるためウォールを張り巡らせた。


「…隠すの、下手すぎ」


 そうジャックが呟いたのを、私は知るよしもなかった。

 交戦することもなく私たちは次のエリアへと入る。すると、通信から悲痛の叫び声が耳に響いた。


『な、なんだぁ!?っざけんなぁうぎゃああー!』
『班長ー!!』
『てめぇー!!!』
『やめろぉぉお…!』


 あまりにも突然届いた通信に、目を見開かせお互い顔を見合わせる。そのあとすぐにカスミ武官から通信が入った。


『2組が全滅したわ。何かに遭遇した通信を最後に反応消失』
「何かに遭遇…?」
「一体、何が起こってるんでしょう」


 カスミ武官の通信に首を捻らせる。皇国の何かかそれとも皇国とは関係ない何かか。考えるとキリがないため、とにかく味方と合流するしかなかった。
 道なりに走っていると前方から皇国兵とクァールの姿が目に入る。交戦するしかない状況に、私は直ぐ様全体に防御魔法を唱えた。

 難なく敵を倒した私たちは要塞地帯エリアへと入ると数歩先に朱雀兵が倒れているのが目に映った。慌てて駆け寄るも、朱雀兵はすでに事切れていて、その近くにノーウィングタグが落ちていることに気付いた私は腰を下ろしそれを拾う。
 土で少し汚れているノーウィングタグを見つめていたら、カスミ武官から通信が入った。


『現在、作戦を展開中のクラスは0組を残すのみになったわ。無事に帰投して……クリスタルの加護あれ!』


 その通信が切れると、私は腰を上げ前を見据える。ここに倒れている朱雀兵の他にも、朱雀兵があちらこちらに倒れているのが見えた。きっとその人たちも既に亡くなっているだろう。


「行こう」
「…うん」


 セブンに声をかけられ、私は頷く。時間がない私たちは、せめてもの救いとしてノーウィングタグだけ回収するとそのエリアを後にした。

 やっとの思いでビックブリッジ西岸に到着する。


『軍神の現出維持に異常発生!』
『戦場全体に異常なエネルギー反応!気を付けてください!』


 全体に訴えかけるような通信が入ってくる。一体何があったのか眉を寄せる私たちに、モーグリから通信が入った。


『任務変更クポ!撤退中の部隊が次々と消息を絶っているクポ!異変が起きてるクポ!気を付けるクポ!』
「消息を絶っている…?」
「どういうことだろうねぇ〜」
「とにかくビックブリッジまで急ぐぞ」


 ビックブリッジに向かって走り出した私たちの目の前に、炎の塊がいくつか落ちてきた。それを見て私たちは言葉を失う。空から落ちてきた炎の塊は軍神イフリートで、落ちてきた四体のイフリートはすでに息絶えていた。
 異常事態を目の当たりにした私たちは息を呑む。


「軍神をも凌ぐ強敵が現れたのか?」
「ちょ、エイトってばなんでこんなときも平然としていられるのー?」
「…これでも一応驚いてはいるんだが」
「そうだとしても軍神を倒してしまうとは…」
「まさかこんなとこにルシが現れるとかないわよねー?」


 ケイトの何気ない一言にその場の空気が凍る。ビックブリッジへと続く道が遠く感じられた。