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 要塞地帯から第六八○航空基地に入った瞬間、紫色の閃光が空に向かって放たれた。目を細くさせてそれを凝視すると、飛行型魔導アーマーが現れる。どうやらそこから皇国の飛行型が打ち出されているらしい。


『気を付けて!皇国の飛行型はそのエリアにある射出口から打ち出されているわ』
『至急、0組の支援に向かってください』
『了解。すぐに向かう』
『支援が欲しいのはこっちだっての』
『0組、わりぃが少し時間がかかりそうだ。踏ん張りな』


 通信が切れると同時に、ヘルダイバーが私たちに向かってマシンガンを撃ってくる。それを避けていたら、崖の下にいる皇国兵が狙っていたかのように銃撃してきた。支援が来るまでの我慢とは言うが、この皇国の攻撃の仕方に皆は顔をしかめる。これは面倒だな、と思いながらウォールを張ると、不意にキングが声をあげた。


「魔導アーマーは俺とトレイとケイトで何とかする。他はあの皇国兵を頼む」
「大丈夫か?」
「あぁ、なんとかなるだろ」
「ちょ、アタシはあっち行きたいんだけど!」
「ケイト、余所見しているとマシンガンを食らいますよ」
「げっ!このっ!あーすばしっこいなぁもう!」


 苛立ちながら魔法銃でヘルダイバーを狙うケイトをトレイが宥めながら弓を引く。キングも二丁拳銃でヘルダイバーを狙いつつ早く行けと急かした。キングの言葉にお互い頷き合うと、ジャックたちは崖の下の皇国兵に向かって駆け出していく。私はその三人を見て、ある人の名前を呼んだ。


「デュースさん!」
「は、はい!」
「デュースさんはキングたちのサポートをお願い!私は下のサポートするから!」
「わかりました、任せてください!」


 強く頷いたデュースさんは笛を吹く構えを取る。そして、演奏が始まった。キングやトレイ、ケイトの傷が癒されていくのを横目に、私は踵を返して崖の下に向かったジャックたちを追いかけた。
 下り坂を駆け抜け、皇国兵のいる場所へと辿り着く。すでにセブンやシンク、エイトやジャックが皇国兵と戦闘に入っていて、直ぐ様ケアルを限界まで詠唱を始めた。詠唱はすぐに終わり、四人を回復させる。ウォールとプロテスを唱え、皇国兵の攻撃対策を万全にするが、倒せど倒せど皇国兵の数が止まることはなかった。


「この新型が束になれば、魔人といえども倒せるはずだ!」
「!」


 その声と共に新たにヘルダイバーが現れる。皇国兵の相手をしている私たちに向かってマシンガンを撃ってくるヘルダイバーに、舌打ちをしながら睨み付けた。めんどくさいことこの上ない。
 ヘルダイバーのマシンガンを避けていると、COMMに通信が入った。


『待たせたな。支援を開始する!』


 通信の相手は候補生で、支援の準備が整ったらしい。同時にモーグリからも連絡が入る。


『2組の準備が整ったクポ!支援攻撃を使い、敵部隊を殲滅するクポ!』
『さっさと砲撃ポイントを指定しな!』
『巻き込まれないようにしてくださいね』


 その言葉通り、支援攻撃を開始すると地面に魔法陣が現れ、ヘルダイバーの真上から青白い光が直撃する。直に攻撃を受けたヘルダイバーは呆気なく崩れ落ちた。
 支援攻撃を使い、皇国兵、ヘルダイバーを殲滅した私たちの元にカスミ武官から連絡が入り、モーグリから追加の任務を言い渡される。


『敵戦力の削減を確認』
『南西に位置する航空基地に、皇国軍将校エーリッヒの出現を確認したクポ!迎撃に向かうクポ!』
「もぐりんも人使い荒いよねぇ〜いつかもぐりんにも体験してもらいたいなぁ〜」
『クポ?!』
「し、シンクさん、ダメですよ!」
「あはは〜冗談だよぉ〜」


 にこにこしながら言うシンクに呆れつつ私たちは南西にある航空基地へと向かった。

 航空基地エリア2に入り少し進むと、私たちに気付いたのか敵が声をあげる。


「次の射出を急げ!」


 目の先にある高台からロケットを持った皇国兵が私たちに向かってミサイルを放ってくる。それをトレイとキングが確実に仕留め、奥にいるであろう皇国軍将校エーリッヒの撃破に向けて走り出した。
 皇国軍が造った高台を駆け上がると、ミサイルを撃つ音が耳に入った。咄嗟にウォールを張ると、ちょうどそこへミサイルが撃ち込まれる。幸い、ウォールを張っていたお陰でダメージは食らわずに済んだ。それを見ていたジャックが感嘆の声をあげる。


「ミサイルが来ることよくわかったねぇ」
「耳は良い方だからね」
「諜報部にいたからでしょう?」
「ご名答。さすがトレイ」
「これくらい容易に予想できます。何故なら諜報部とは――」
「トレイ、今はその話をしている場合じゃないだろ」
「はっ、すみません。つい…」


 トレイの話を遮るエイトに、私とジャックは密かにホッと息を吐いた。そこへまたヘルダイバーが出現し、それを見て小さく肩を落とす。


「はぁー次から次へと…」
「やるしかないようだしねぇ」
「オレたちがやるしかないんだ。頑張ろう、メイ、ジャック」


 エイトは真剣な表情でそう言うと一直線にヘルダイバーへ向かっていった。その勇姿を見送った後、ふとジャックを見上げるとちょうど目がかち合い、ジャックは苦笑いしながら口を開く。


「エイトは本当正義感強いなぁ」
「ジャックも見習ったら?」
「僕はエイトみたいに熱くなれないから無理だよぉ」
「メイのことになると誰よりも熱くなるのはどこのどいつだろうな」


 私たちの背後にいつの間にいたのか、キングが間に入る。吃驚して振り返ると、キングはニヤリと笑い口を開いた。


「前衛がサボるとはいい度胸だ。今度エイトにジャックと鍛錬するよう言って」
「よぉしエイトばりに頑張るぞぉー!」


 キングが言い終わる前にジャックはロケットを持った皇国兵に向かって走り出す。その背中に向けてプロテスとケアルを放ったあと、私は首を傾げながら口を開いた。


「…そんなにジャックはエイトと鍛錬したくないの?」
「メイもエイトと鍛錬してみたらどうだ?あいつはストイックに鍛錬に励んでるからな」
「……考えとく」


 そう言うとキングに鼻で笑われてしまった。