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 ジャマーを撃破し、後方からの皇国軍も抑えた私たちは次なる任務に向けて走り出した。私たちの頭上を何体ものバハムートが通過していく。他にも、候補生や朱雀兵も進軍していた。
 次の目的地に向かう途中、COMMから候補生の感嘆の声が届く。


『やるじゃん、アンタら』
『帰ったら一杯奢ってやるぜ!』
『こちら01混成中隊。待ってたぞ、よーし、前進する!』
『08混成中隊だ。ギリギリだが助かったぜ。前進する!』
『はっ、無事だったみてぇだな』
『味方右翼が飛行型魔導アーマーの攻撃を受けています。2組は至急、向かってください』
『相変わらず人使いが荒いことだ』
『たまには褒めてくれてもいいんですけどねぇ』
『おめぇらが死んだら笑ってやる。嫌だったら死ぬんじゃねぇぞ』


 通信が切れたあと、ふと空に視線を向ける。空は未だ曇ってはいるものの、いつの間にか雨は止んでいた。

 皇国軍要塞地帯エリア1に入ると最初に出会った新型魔導アーマー・ヘルダイバーが私たちの行く先を阻む。その他にも重機関銃兵が私たち向かってガトリングガンで弾を撃ってきた。ウォールを唱えダメージを軽減させる。ヘルダイバーの攻撃を避けつつ先に重機関銃兵を倒しに向かった。
 遠距離攻撃組はヘルダイバーを、近・中距離攻撃組は他の皇国兵やクァールを倒しにかかる。デュースさんや私は援護に回った。
 デュースさんほどの援護はできないけれど、回復魔法や防御魔法を駆使して援護に回る。そんな中、COMMから通信が入ってきた。


『だよ、こいつらしつけぇぞ!…皇国の巨大砲台か!?』
『何……あれ?』
『はぁ……あんなの撃ち込まれたら司令部もヤバイかもですね』


 候補生の"巨大砲台"の言葉に眉を寄せる。それと同時にモーグリから新しい任務が言い渡された。


『新たな任務クポ。皇国国境要塞付近に巨大砲台が出現したクポ!0組はただちに砲台を停止させるクポ!』


 皇国は新型魔導アーマーの他に巨大砲台なんてものも作っていたのかと溜め息が漏れる。その砲台の存在は朱雀軍にとって煩わしいものでしかならないのは確かだ。一刻も早く砲台を停止させなければ、ジャマーを破壊していても被害は止まらないだろう。
 ヘルダイバーや重機関銃兵を倒し終わると、カスミ武官から通信が入る。


『皇国巨大砲台の稼働を確認。至急、破壊に向かって!』
『おう、行ってこい!ここは俺に任せておけ!』


 カスミ武官の他に、候補生も後押しの声をあげる。その声に応えるように、私たちは次のエリアへ足を運んだ。

 要塞地帯エリア2に入ると皇国兵と魔導アーマー・ニムロッドの姿を目にする。敵に向かって走り出すと同時に通信が入ってきた。


『ウォールが効かない!!』
(…ウォールが効かない?)


 眉を寄せながら、ウォールを限界まで詠唱し皆にかけていく。
 ウォールが効かない、というのは巨大砲台のことだろうか。巨大砲と言うからには弾もそれなりに大きいとは思うが、ウォールが効かないとしたら為す術はないだろう。その砲撃の威力はCOMMを通して伝わってきた。


『損害を報告せよ』
『左翼に着弾。21、24大隊に損害多数』
『戦闘続行不能。全体の作戦に支障はありません』
『こちら08混成……全滅だ……砲撃で持ってかれた…部隊は俺ひとりだ…』


 COMMの通信に耳を傾けながら、シンクの攻撃を盾でガードする皇国兵の背中に向かってサンダーを放つ。不意打ちを食らった皇国兵はあっという間に焼け焦げ、シンクにファントマを抜き取られた。シンクはファントマを回収したあと私に向かって手を振る。それに応えるとシンクは嬉しそうに笑って、後ろから襲いかかる皇国兵に振り返りながら、メイスを振り切っていた。
 思わず顔が引きつる私に、ケイトが声をかける。


「そういえばさー、メイって魔力どんだけあるの?」
「…え」
「この作戦始まってから結構魔法使ってるよね?なのに無くなる気配が全くないからさー」
「あぁ、確かに…」
「は?まさか自分でも気付いてなかったわけ!?」


 声をあげるケイトに私は苦笑いをする。そういえばあまり考えずに魔力を使っていた。ケイトに言われるまでほとんど無意識だった。そんな私にケイトは魔法銃を回しながら呆れたように溜め息をつく。


「危機感なさすぎというか暢気というか…別に使うなとは言わないけど、自分のことも考えなさいよ」
「や、大丈夫だって…」
「アタシたちはいいけど、メイは死んだら…」
「ケイト」
「!セブン」


 セブンがケイトの肩を掴み、ケイトの言葉を遮る。ケイトはセブンを振り返ると、表情をハッとさせて気まずそうに顔を俯かせた。首を傾げる私に、セブンは何でもないと首を横に振る。ケイトは仕切り直すように咳払いをしたあと、私の肩を叩いた。


「無理はしないこと、わかった?」
「…私ってそんなに頼りない?」
「そういう意味じゃなくて、ああーもう!とにかく無茶だけはするな!以上!ほら、行くよ!」


 そう言うと無理矢理背中を押され、走らされる。いつの間にか敵は倒し終わっていて、走る私たちにシンクとデュースさんが手を振っていた。ケイトの言葉の続きが少し気になったが、思考を断ち切るように頭を振った。