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 国境平原を抜け朱雀軍の陣地跡に入る。すると皇国兵が私たち目掛けて走ってきているのが見えた。私はジャックの手を離し自分の武器を構え、皇国兵を迎え撃つ。皇国兵と交戦中、カスミ武官や候補生から通信が入った。


『そこから先はジャマーの影響で援護はできないわ。幸運を!』
『朱雀進軍はおめぇらのジャマー破壊にかかってる。ヘマすんじゃねぇぞ!』


 その通信を聞きながら、皇国兵の銃撃を避け皇国兵向かってサンダーを放つ。膝から崩れる皇国兵を横目に、一体の魔導アーマーがいるのに気付いた。


「朱だ!クリスタル妨害範囲内と油断するな!」


 その口振りから普通の皇国兵ではないことを悟り、魔導アーマーに乗っている奴がここの指揮官だと確信した。銃を振り上げる皇国兵を躱し、ブリザガを唱え辺りを凍らせる。それは数人の皇国兵を巻き込み、氷に触れた皇国兵の身体は一瞬にして凍り付いた。そこへすかさずトレイがファントマを回収する。


「あまり無理してはいけませんよ」
「大丈夫大丈夫、0組の足を引っ張らないようにしないと」
「メイはもう0組だろ」
「…そうだった」


 トレイとキングに言われ苦笑する。0組になった実感は未だに湧かなかった。そんな私たちを他所に爆発音が耳に届く。音が聞こえたほうに視線を移すと魔導アーマーの姿はなくシンクが手を振っていた。


「魔導アーマー破壊完了〜!」
「シンクって見掛けによらず頼もしいね」
「ジャックよりもか?」
「…なんでそこでジャックが出てくるの?」


 ジャックの名前をあげるキングに私は眉を寄せる。キングはそんな私を見てほくそ笑んだ。


「別に他意はない」
「嘘だ」
『08混成中隊だ。どうにか敵魔導アーマー部隊を抜けた』
『01混成中隊、橋に到着した!くそっ!敵の増援が止まらない!』
「…行くか」
「…だね」


 キングにどういう意味か追及しようとしたが、味方の通信によってそれは遮られる。私たちは止まっていた足を動かし、ビッグブリッジを目指して走り出した。

 ビッグブリッジ東岸に入ると数十メートル先に魔導アーマー、ニムロッドの姿が目に飛び込んできた。ニムロッドから放たれたミサイルが地面に爆発し土煙と黒煙が舞う。ニムロッドを先に破壊したほうがいいかもしれない。そう判断した私は腕で目を庇いながら、魔法を唱えた。


『こちら08混成中隊!ジャマーの破壊はまだか!耐えられないぞ!』
『こちら04混成中隊…橋はまだか…兵のほとんどを失った…』
『また一人死んだ…ダメだ…こちらは全滅…すまない』


 その通信に私は拳を握り締める。ジャマーの破壊を急ごうにも敵がそれを阻んできて、思うように進めない。堪え難い焦燥を感じていると、不意にジャックが私の名前を叫んだ。ハッと顔をあげると、ニムロッドが私に向かって銃を構えていることに気付き、同時にミサイルが放たれる。私はそれを間一髪で回避し、ケイトとセブンがニムロッドを破壊した。
 ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、後ろから殺気を感じた私は、唱え終わっているサンダーを振り返りながら放つ。ちょうどそれが命中した皇国兵は黒焦げとなりファントマを回収された。
 ジャックが慌てて駆け寄ってきて声をかける。


「メイ、大丈夫?!」
「ごめん…ありがとう」
「よかったぁ…メイ、余所見しちゃダメ。気になるのはわかるけど、一人で突っ走ったところで自分の命を無駄にするだけだよ」
「…うん」


 ジャックの顔はいつになく真剣な表情で、私のことを思って言ってくれてるのがわかる。私は顔を俯かせ奥歯を噛み締めた。
 ジャックの言う通りだ。通信から聞こえてくる声に気を取られすぎて、一人で勝手に焦って、ジャックが私の名前を叫んでくれなかったら殺られていたところだった。ジャックに言われたことを深く反省していると今度は肩を叩かれ、反射的に振り返る。そこには、ジャック以外の皆が私を見つめていた。


「メイっち、だいじょーぶ!わたしたちが一緒だよ〜!」
「そうですよ!メイさんは一人じゃありません!もっと頼ってください!」
「一人であーだこーだ考えてないで、アタシたちに甘えればいいのに!あ、まさか自分が年上だからってアタシたちを舐めてる訳じゃないでしょーね?」
「前にメイが言っただろう?頼りにしてるって。私たちがメイを信頼しているように、私たちもメイに信頼されたいんだ」
「そうですよ。あなたは私たちの仲間なんですから」
「あぁ、その通りだ。ここにいない奴らだって、皆同じことを思ってるさ」
「全く、気を使いすぎだ」


 そう言ってくれる皆に私は呆然とする。ふとジャックを見上げれば、ジャックはにっこりと笑みを浮かべていた。


「ね。皆、メイに頼られたいんだよ」
「…う…あ…」


 なんて返せばいいのかわからず、顔に熱が集まるのを感じながらしどろもどろになっていると、新たな敵の足音が耳に入り武器を構え前を見据える。皆はもう敵に向かって駆け出していた。切り替えが早くて思わず感心してしまう。


「メイ、僕達も行こー!」
「うん…!」


 私はこそばゆい気持ちを感じながら、皆の背中を追い掛けた。