191.5




 西部戦線へ行く四人を見送ったナギは一人溜め息をつく。メイがジャックを西部戦線へ送っていくことに、良い気はしなかった。しかし、メイがジャックを送ったほうが効率がいいことくらいナギも理解していた。


「…繋がんねぇし」


 セブンがメイに連絡をとったあと、ナギもメイに連絡をとろうと試みたが、何故かメイと連絡は取れなかった。その苛立ちを隠せず、ナギは舌打ちをする。そこへ一人の候補生がナギに声をかけた。


「な、ナギ先輩!」
「…ん?なに?」
「ドクターが、ナギ先輩に用があるって…」
「あぁ、わかった」
「…何かあったんですか?」
「いや、何にもないから。わざわざ連絡してくれてサンキューな」
「いえ…」


 ナギはその候補生の頭を軽く叩くと、人気のない場所へ移動する。周りを見渡し人がいないことを確認すると、COMMの電源を入れ、アレシアに通信を繋げた。


「…ナギです」
『早かったわね。どうかしら、あの子の様子は?』


 ナギはアレシアに聞かれ、自身がメイの監視を請け合っていたことを思い出す。アレシアの問いに深呼吸したあとナギは口を開いた。


「ジュデッカ会戦が始まったあと、ソウリュウのブレスに巻き込まれ飛空艇から落ち、その間は監視できませんでしたが…」
『構わないわ。あったことを話して頂戴』
「…報告します。五星龍の出現で避難するはずだった0組が飛空艇に乗り遅れた直後、上空に消息不明だったメイがヒリュウに乗って現れました」
『それで?』


 淡々と話すナギにアレシアは驚くことなく耳を傾ける。


「0組と五星龍の様子を見てくると言って、飛空艇から離れたあと五星龍に勝っただろう0組と一緒にいました。それから、やることがあると告げて、今は消息は掴めてません。…情報では、ジャックを乗せて西部戦線に向かったと聞いています」
『…そう、わかったわ。監視ご苦労様』


 アレシアに伝え終わるとナギは一息つく。そんなナギに、アレシアは労いの言葉をかけてきた。アレシアの言葉にナギは眉を寄せる。


「…どういう意味ですか?」
『あなたはもうあの子の監視をしなくてもいいってことよ』
「は…?」
『よかったわね』
「ちょ…!」


 ナギの制止も虚しくCOMMの通信は切れる。メイの監視をしなくていいと言うアレシアにナギは首を捻った。メイの処分はアレシアが握っていて、監視の任務が終わったということはもしかして――。
 考え込むナギの元に、諜報課から通信が入り思考は強制的に遮られるのだった。



*     *     *



 アレシアは部屋に備え付けてある椅子に座り、紫煙を吐き出す。そして、通信機を使いある人物のCOMMに通信を繋げた。


「少し、いいかしら?」
『…如何されましたか』
「あの子の、メイの処分が決まったわ。あなたからあの子へ伝えてほしいの」
『その処分とは?』
「メイは本日以降より0組に配属すること。以上よ」
『…承知致しました』


 COMMが切れるとアレシアは煙管を口に含み息を吸う。そして窓の外を見据えてアレシアは眼鏡をかけ直し、紫煙を吐き出しながら口元をあげた。その笑みの意図を知る者はいない。