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 新型魔導アーマーを撃破すると、カスミ武官から通信が入った。


『敵の大型魔導アーマー部隊がその先に集結中よ。第二防衛ラインに向かっている模様。そこが突破されると、戦線は総崩れになるわ。なんとしても阻止して!』
『第一防衛ラインへ侵攻中の大型魔導アーマーを殲滅するクポ!』


 その通信を聞いて、先に進もうとする0組を他所に私は一人考え事をしていた。
 ジャマー圏内にいるはずなのに、何故魔法を使えたのか自分でもわからない。そういえば前にも似たようなことがあった。
 0組は女王暗殺、私はシド暗殺容疑として疑われ、帝都を脱出しなければならなくなったあの時だ。白虎の町から脱出する前、ホテル内にはクリスタルジャマーが搭載されていた。脱出前、0組担当の従卒のアリアちゃんが皇国に銃撃され、咄嗟に唱えたケアルが使えたことは今でも鮮明に覚えている。あの時、ジャマーが搭載されていたホテル内で何故ケアルを使えたのか、不思議でならなかった。深く考える余裕はなかったから気のせいだと思っていたけど、どうやら気のせいではなかったらしい。
 悶々とする私に誰かが肩を叩いてきた。


「今はこの作戦だけに集中しよう」
「セブン…」
「そうそう!今考えたところで答えが出るわけじゃないんだし!気にしない気にしない!」
「もう、メイっちはすぐに考え込むんだから〜。ラッキー程度に思ってたほうが気が楽になるよぉ〜」
「不思議に思うのはわかりますが、その問題はこの作戦が終わってからにしましょう!わたしたちも一緒に考えますから」
「…あ、ありがとう」


 セブンやケイト、シンクやデュースさんに励まされ、思わずはにかんでしまう。そんな私に四人は微笑みを浮かべていた。


「微笑ましいですね」
「あぁ」
「…ジャックの羨ましそうな目以外はな」
「いいなぁ…僕も混じりたい…」


 ジャックがそうぼやいていたことを、私は知る由もない。

 私が魔法を使える問題は後で考えることにして先へ進む。魔法が使えるなら使っていこうと私は意気込んだ。
 第一防衛ラインに入るとカスミ武官から通信が入る。


『魔導アーマー第一防衛ラインに接近!援軍合流まで持ちこたえて!』


 その通信を聞いて私たちは細心の注意を払いながら進んでいくと、前方からコロッサスが何体も現れた。それを見て私たちは顔を引きつらせる。


『来たぞ!覚悟はいいな!』
『ここが落ちれば終わりだ!援軍が来るまでなんとしても持ちこたえろ!!』


 朱雀兵が口々に檄を飛ばす。そんな中、ジャックが刀を構えながら口を開いた。


「なかなか見たくない光景だねぇ。ねぇ、メイーこれだけ作るの何ギルかかるのかなぁ?」
「いや、私に振られてもさすがにわかんないよ」
「あはは、そうだよねぇ」


 笑うジャックに溜め息が漏れる。そうこうしているうちに、コロッサスが左腕をあげてこちらに向かってミサイルを撃ってきた。それを避けながらコロッサスに向かって駆け出す。コロッサスがミサイルを撃つ姿勢に入ると、地面を蹴って飛んだ。空中でサンダーを唱え、コロッサスの体に着地すると唱え終わったサンダーを放つ。黒く焦げるコロッサスから離れると、セブンがファントマを回収し、コロッサスは爆発した。


『くっ、ダメ……もうこれ以上は…』


 COMMから聞こえてくる諦観する声に、私は眉をひそめる。朱雀兵や候補生のためにも早くジャマーを破壊しなければ、被害は増えるばかりだった。
 最後のコロッサスを倒し終えると、カスミ武官からまた通信が入る。


『0組は敵前線を抜け、ジャマー搭載型魔導アーマーの破壊に向かって!悪いけど、皇国のジャマーに対応できるのは……頼んだわよ』
『ビッグブリッジへ進軍し、ジャマー搭載型魔導アーマーを撃破するクポ!』


 カスミ武官の通信とモーグリの通信に、私たちは頷き合い先へ急いだ。

 国境平原に入ると、奮起を促す通信が飛び交う。それと同時に、各隊の状況も通信されてきた。


『我らの勝利は朱雀の勝利へと繋がる!』
『心してかかれ!』
『てめぇら!0にだけ良い格好させてんじゃねぇ!』
『そうよ!私たちだって!』
『ちくしょー、絶対生きて帰ってやる!』
『こちら01混成中隊!飛行型魔導アーマーの攻撃を受けている!』
『ざけんじゃねぇ!』
『動ける隊があったら回してくれ!』
『こちら04混成中隊。兵員が少なくなってきている。増援求む!』
『現在、増援に向かえる兵員の確保はできない……すまない』
『了解した』


 その通信だけで、どれだけの被害が出ているのか容易にわかる。朱雀兵や候補生の苦しんでいる姿が瞼に浮かんだ。
 国境平原を歩く道の途中、この戦いで息絶えた人の姿が目に映る。瓦礫に下敷きになっている者、銃撃を受け大量の血が地面を染めている者、血だらけとなり仰向けで倒れている者、それはどれも候補生だった。
 いくら慣れているとはいえ、同胞が亡くなっている姿を長くは見たくない。できるだけ視線を向けないようにしていると、誰かが右手を握ってきた。ハッとして顔をあげると見慣れた背中が目に入る。


「さっさと片付けるぞー!」
「お〜、ジャックン気合い入ってるね〜!」
「とーぜん!今の僕は無敵だからねぇ!」
「そうなの?じゃあ次のエリアはジャックに任せるわ!」
「え!?う、無敵なのは無敵なんだけど、メイを守るとき限定っていうか…」
「矛盾してますよ」
「つ、次のエリアも皆で!頑張るぞー!」
「ジャックさん、誤魔化しましたね…」


 ケイトの無茶ぶりにジャックは慌てて言葉を濁すが、トレイの冷静な突っ込みを入れられてしまい誤魔化すように声をあげる。セブンとキング、エイトは呆れた顔で溜め息をついていた。
 ジャックの手の温もりを感じながらそんな0組を見て、不思議と穏やかな気持ちになるのだった。