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 クラサメ隊長の言葉にその場にいる全員が頷き、勝利へ向け動き出した。最終防衛線に入る前に私はクラサメ隊長に振り返る。クラサメ隊長は他の候補生に指示を出していた。


「クリスタルの加護がありますように…」


 その背中に向かって呟くと私は0組の後を追った。

 最終防衛線に入るとすぐにモーグリから任務の詳細を伝えられる。


『友軍が敵を引き付けている隙に朱雀陣地まで進軍するクポ!』


 それを聞いた私たちは頷き合い、走り出した。ふと空を見上げれば、皇国軍の飛空艇が何隻も待機しているのが目に入る。それに眉を寄せながら、下り坂に差し掛かると色々な通信が飛んできた。足を動かしながら、その通信に耳を傾ける。


『軍神解放、バハムート出撃します』
『こちら第03混成中隊。ウォールで防戦中。全然前に進めないわ!』
『第04混成中隊だ。砲撃が凄すぎる。前進することができない!』
『砲撃がくんぞ。隠れながら進め。こんな所で死んだら笑いもんだ』


 その通信と共に、頭上をバハムートが何体も通り過ぎた。何体ものバハムートを見送ると、不意に地面が爆発する。それが皇国軍の砲撃だとわかるのに時間はかからなかった。
 砲撃を食らわないように進むと、今度は辺りが青い光に包まれる。


『敵陣がジャマーを展開!2、3、4、9の防空線が無力化!』


 ジャマーによって魔法や軍神が制限されてしまいそれによって朱雀兵はおろか、軍神さえも進軍できなくなった。
 砲撃やジャマーを繰り出す皇国軍に、ジャックは思わず口を開く。


「ひゃーずいぶん派手だねぇ。今の所、互角って感じ?」
『互角なわけねぇだろ!攻めて攻められ、損害はこっちが多すぎだ』
「そうなの?」
「…うん、皇国軍がジャマーを駆使してる分、私たちのほうが被害は大きいと思う」
「なるほどねー」


 ジャックの言葉に反応したのは、2組のナデシコさんだった。ナデシコさんに言われ私に振るジャックに、タレットを使い攻撃をする候補生を見つめながら答える。ジャックは納得したように頷いた。状況は私たちが思っていたより深刻だった。

 私たちは最終防衛線から第二防衛ラインに入る。少し進むと、機械の音が聞こえてきた。敵の気配に私たちは攻撃態勢をとる。そこに現れたのは今まで見たことがない魔導アーマーだった。それは私たちを確認すると、空中を飛び突進してくる。その攻撃を何とか避け、体勢を整えた。
 初めて見る魔導アーマーに、私は顔をしかめる。まさか、皇国がこんなものを作っていたなんて思いもしなかった。そう思ってたのは私だけじゃなく、0組の面々も呆然と呟いていた。


『新型?!』
「ありゃりゃ。皇国、こんなの作ってたんだねぇ。苦戦するのも、当たり前かもねぇ」
「こんな物を量産したのですか?!苦戦するわけですね」
『01混成だ!敵新型機と遭遇!…うぎゃあー!』
『こちら04混成中隊……死傷者多数…進攻を続ける!』
『こちら08混成中隊!新型機と戦闘に入った!』


 所々で新型機と戦闘に入っている通信を聞きながら思考を巡らす。この新型機がいくつも量産されていたら、魔法が使えない朱雀兵や候補生にとっては危険だ。飛び回る魔導アーマーと対峙して、対応するためには少なからず時間がかかる。どうにかして新型に対応できるよう動きを見定めなければならなかった。
 0組が新型に攻撃を繰り出すも、新型は機械の割に素早く避ける。高速で動き回る新型に私は舌打ちをした。攻撃をしようにも当たらなければ意味がない。
 新型は頭を前に向け、ミサイルを撃ってきた。それを避け、新型を睨み付ける。


(?、動きが一瞬停止した?)


 ミサイルを撃ったあと、新型が一時静止したのを私は見逃さなかった。しかし停止と言ってもほんの1、2秒で、すぐに移動を開始する。
 次に左腕を構え、私たちに向かって弾を撃ってきた。その数、8発。撃ったあと左腕を下ろす新型にそこでも隙ができることを確認した。
 新型が飛ぶのをやめ、着地する。そこへすかさず攻撃を仕掛けに、エイトが飛び込んだ。


「!、ウォール!」


 エイトが新型に攻撃を仕掛ける前に咄嗟にウォールを唱える。新型は飛び込んでくるのを見計らってか、マシンガンで弾を連発してきた。エイトは攻撃ができずに、弾を避け新型から離れる。


「すまない、助かった」
「ううん、気にしないで」
「………」
「…ジャックに見られてる気がするんだが」
「…気のせいだよ」


 刀を構えながらもエイトを見つめるジャックに、エイトは首を傾げる。小さく肩を落とす私に、セブンが怪訝な表情で声をかけてきた。


「メイ、今魔法を使えたな」
「え?…あ」
「何故メイが魔法を使えるんだ?」
「………」


 セブンに言われ、気付かされる。今、ジャマーの影響で0組以外は魔法が使えないはずなのに、自分が魔法を使えたことに呆然とした。
 両手を見つめていると、ミサイルを構える音にハッと我に返る。私たち目掛けてミサイルを撃ってきた新型に、今はこの戦いに集中することにした。
 攻撃動作を何となく把握してきた私は、敵の攻撃を避けながらキングに近寄る。


「キング」
「どうした?」
「ミサイルやマシンガンを撃ったあと、一瞬隙ができるから」
「…やってみるか」
「うん、じゃケイトとトレイにも言ってくる」
「気を付けろよ」


 全部を話さなくても理解するキングに感心しながら、ケイトとトレイにもキングに伝えたことを話す。すぐに理解してくれた二人の側を離れ、敵の動きを見ながらCOMMでカスミ武官に連絡をとった。


「メイです」
『メイ?どうしたの?』
「新型の対応について、少し伝えておこうかと」
『助かるわ。教えてくれる?』


 カスミ武官にも同様のことを話す。カスミ武官はなるほど、と納得したように頷き、お礼を言ったあとCOMMが切れた。カスミ武官との通信が終わると同時に、新型機の動きが止まり爆発が起きる。それを見て新型機を撃破できたのだと安堵した。