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──風の月(4月)22日

 この日、トゴレス要塞攻略戦が実行された。

 魔導院周辺の皇国軍を撃破した朱雀軍はさらなる国土解放を目指し、トゴレス要塞を中心とするトゴレス地方を攻略する"ミスリル・アクス"作戦を発動した。

 これは表向きの作戦である。私たち諜報部はこれとは別の作戦を企てていた。トゴレス要塞の戦闘が開始される前に、要塞内で捕らわれている民間人を救出せよと命が下ったのだ。
 実行部隊は私たち候補生部隊で、少人数による奇襲部隊として要塞内に潜入する。
候補生部隊である私たちはこの作戦が実行される前日、コルシで宿をとり明日に備えて身体を休めていた。


「明日、か」


 トゴレス要塞ではたくさんの候補生が投入される。もちろん、0組もその中に入っているだろう。もしかしたら、どこかで会うかもしれない。
 今回は0組を監視するという任務は受けていないため、0組と鉢合わせしたとしても後ろめたさは感じなくて済む。まぁ、会ったら会ったでなんか気まずい気もするけれど。
 私は武器である小刀の手入れをしていると、扉をノックする音が聞こえた。こんな時間に誰だろう、と小刀をテーブルの上に置き立ち上がり返事をすると、部屋の外から聞き慣れた声がした。


「よう、今大丈夫か?」
「ナギ?どうしたの、こんな時間に」


 部屋の覗き穴でナギを確認すると、私は鍵を開けて扉を開ける。そこにはナギが頭をかいて苦笑いを浮かべていた。
 廊下で話すのもなんだし、と私はロビーへ行こうと促す。部屋でいいじゃんというナギに私は冗談じゃないと返しナギの背中を押してロビーへと向かった。


「それよりもどうしたの?」
「いやー…まぁいいじゃん!たまには、さ。減るもんじゃねぇし」
「そりゃそうだけど…。なんかナギ、この前からおかしくない?」


 ついこの間のナギとの会話を思い出す。テラスで話していたときもどこか変だった。あの時からだろうか。前々から過保護だったが、それよりももっと過保護になってきた気がする。
 ナギはおかしいと言う私を否定し、ロビーのソファに座った。私も向かいにあったソファに座る。深刻そうな顔をしているナギに、私は本当にどうしたのと問い掛けた。


「……あのさ」
「うん?」
「…明日、絶対俺から離れるなよ」
「え、」
「なーんか、イヤな予感するんだよな…。だから、万が一のため俺から絶対離れるんじゃねぇぞ」
「え、と…」
「お前に拒否権はねぇからな!」
「は、はぁ…」


 ナギのいうイヤな予感とは何だろう。でもナギの勘は今まで外れたことはない。まぁこれは今までの私が経験した上での話だけど。
 全く、勝手にぺらぺら話し出し私に選択権はないし、本当にナギは勝手な奴だ。けど勝手な割にナギは私のイヤな事はしない。とことんくえない奴だ。


「ま、話はそれだけ。悪いな、こんなことで付き合わせちまって」
「いやいいけど…」
「ああ、あと明日、俺が迎えに行くから。ちゃんと起きてろよ」
「え、あ、はい」
「ん、いい返事。そんじゃな、おやすみ」
「…おやすみ」


 ナギは私の頭を軽く撫でるとロビーから消えた。一体なんだったのだろう。
 ナギの行動に戸惑いながらも部屋に戻った。