190.5
西部組と分かれたサイスたちは、クリムゾンの任務にて、ある場所へ来ていた。サイスたちは敵と交戦することもなく、任務のターゲットである朱雀武官と蒼龍武官を見つけることに成功する。
「よし、連れてってくれ」 「えぇ」 「へぇ〜、本当に亡命するつもりなんだ?」
思いがけない第三者の声に朱雀武官は驚愕し、慌てて振り返る。そこには、朱雀の候補生である0組が、武器を構えて立っていた。
「!?0組の候補生?まさか諜報課からの任務か?」 「そういうことを口走るから処分命令がでるんだよ」
サイスは二人を睨み付けながら淡々と喋る。朱雀武官の言う通り、この任務は諜報部からの任務だった。
* * *
任務を言い渡されたのは、ジュデッカ会戦が始まる直前だった。0組の教室にナギが訪れ、幸か不幸かサイスが捕まった。
「よぉ」 「なんだ、任務か?」 「そっ、あっちのね」
腕を組むサイスに、ナギは頭をかきながら任務内容が書かれている紙をサイスに渡す。サイスはそれを受け取り、眉を寄せながら内容に目を通した。
【朱雀武官の内通確認と処分】 朱雀武官に、蒼龍の武官と内通 戦場にて亡命の疑いが有り。
魔法技術の漏出を避けるため 真偽が確認されし場合、相応の処分をくだすこと。
「なんだよ、また裏切りか?朱雀を出てってまで、何がしたいのかね?」
サイスはやれやれと肩を落とす。独り言のように呟くサイスに、ナギは苦笑いを浮かべ、首を横に振りながら口を開いた。
「隣の芝生は青くみえるってのもあるんだろうが、とうが立った人間にとっては尚更なんだよ。まぁお前らは違うだろうけど、魔法が使えるってのは、やり方によっちゃあ地位もギルも、いくらでも掴む方法があるのさ」 「興味ねぇよ」
腕を組みながらナギの言葉を一蹴するサイスに、ナギはふ、と笑う。
「だろうね。ま、任務よろしくねぇー」
* * *
全くお気楽な奴だとサイスは思いながら、目の前にいる二人を睨み付ける。サイスと朱雀武官の間に張り積めた空気が流れ、それを破ったのは蒼龍武官だった。
「待ってください!朱雀の方、見逃してください」 「んなことできるわけねぇだろ」 「私たち、愛し合っているのです」 「はぁ?」
蒼龍武官の思いがけない発言にサイスは面を食らう。そんなサイスに、蒼龍武官は淡々と話し始めた。
「お互い身分のある者ですが、それを捨て、コンコルディアの田舎に逃げようと……」 「駆け落ち?」
肯定するように頭を下げる蒼龍武官にサイスは顔を引きつらせる。
「だから――」 「だから見逃せって?アホ言うな」
当然だろう。一応これは諜報部から頼まれた任務だ。これを見逃してしまえば、ナギが危惧している事態が起こるかもしれない。でも何故か、サイスはこの二人を憎めないでいた。 サイスが容赦しないとわかったのか、朱雀武官が顔を俯かせながら口を開く。
「わかった。任務は私の処分のはずだ。彼女は見逃せ」 「ダメです!」 「黙ってろ!あんたらに選択権などない!さて……」
二人を黙らせてサイスは顎に手をあてて考える。ちらりと二人を見れば、二人は悔しそうに顔を歪めていた。 端から見て、二人が愛し合っているという証拠はない。しかし、朱雀武官が言った、処分を受ける代わりに彼女を見逃してほしい、という発言は本気で言っているように見えた。
まるで、あいつらみたいだ――。
サイスの脳裏を過ったのは、いつも一緒にいるあの二人の姿だった。 もし、この二人があいつらだったら、とサイスは唐突に思い至る。どうしてかはわからない。サイスはあたしらしくない、と首を横に振り、溜め息をついた。
「白けた。とっとと行け」 「いいのか?」 「行きましょう!早く!」 「あぁ…助かった、ありがとう」
その言葉を背中で受けたサイスに、二人がいなくなったあと、エースが首を傾げながら、サイスに問い掛ける。
「いいのか?」 「どうでもいいだろ、あんなの。国外追放ってのも、処分なんじゃねぇの?」
呆れながら言うサイスに、エースたちは怪訝な顔でサイスを見つめていた。 ターゲットがいなくなり、サイスは腰に手をあてて吐き出すように口を開く。
「何をするつもりだったか知らねぇが、くだらねぇな……あ?んだこの書類」
二人が居た足元に書類のような紙切れが落ちているのに気付く。それを拾い上げ、内容を読んでみるも、不死だかなんだかよくわからない文字の羅列が紙一面に書かれていた。こういうのはあいつに任せたほうがいいな、と思いながらサイスはその場を後にした。
「ごくろうさん、なんだい用って?」 「ターゲットが持ってた。あたしじゃなんのことかわかんねぇから、あんたに渡しておこうと思ってね」 「不死研究?」 「もうあたしゃあんな任務ごめんだわ」 「は?」 「いや、こっちの話。んじゃ、渡したよ」 「?あぁ、少し調べてみるか…」
|