189.5




 ホシヒメに言われた言葉が、頭の中で何度も繰り返される。ホシヒメに何を言われても流せばよかったのに、何故か真に受ける自分がいた。多分、ホシヒメの言うことが図星だったからかもしれない。

 いつか考えたことがあった。メイのことがどうして好きなのか。その時は深く考えようとしなかった。考えたところで、好きなものは好きなのだからとこの感情と向き合わなかった。
 ホシヒメに言われるまで、僕は本当にメイのことが好きだったのだろうか。笑顔を独り占めしたいと思ったことも、誰かに取られたくないと思ったことも、守りたいと思ったことも、泣かせたくないと思ったことも、幸せにしたいと思ったことも、どれも僕の意志だと思っていた。
 どうして?好きだからに決まってる。なのに、なんでこんなにもモヤモヤするんだろう。独り占めしたいと思ったことも、取られたくないと思ったことも、守りたいと思ったことも、泣かせたくないと思ったことも、幸せにしたいと思ったことも、僕の意志じゃなかったとしたら一体誰の意志なのだと言うのか。僕は僕だ。僕はマザーの子どもで、0組のジャックという名前で、メイのことが好きで…。

 メイと出会った日から、メイと会うたび、話すたびに、"改めて"好きだという気持ちが湧いて出てくる。

 …"改めて"?

 改めてってなんだろう。まるで、メイと会う前から、僕はメイのことを好きだったように聞こえる。メイと出会った日から、僕が僕ではなくなったような気がして、メイに会いたくてしょうがなくて、それが何故なのか、僕はわからなかった、わかろうとしなかった。
 メイの存在が僕にとってかけがえのないものにはかわりない。メイが好き、それは紛れもない僕の気持ちだ。僕は自分の意志で、今まで行動してきたつもりだった。それが、決められたものに見えるとホシヒメに言われ、そうかもしれないと思った僕がいたのも事実だった。

 今まで自分の意志だと思っていたのは、一体誰の意志だったの?僕の一番は、メイだ、そうだよね?
 確認するように繰り返す。でも、ホシヒメは僕の本心を見透かしていた。僕の一番は――。

 そこまで考えて、僕は不意にメイを後ろから抱き締める。


「ちょ…」
「ごめん…少しの間、こうさせて…」
「………」


 そう言っていつも受け入れてくれるメイに、僕は胸の奥が熱くなる。
 僕の一番はマザーだ。でも、マザーも大切だし、メイのことも大切で、どちらを選ぶことなんてできない。メイとマザーを比べられるわけがなかった。

 もし、二人のうちどちらか失うとしたら、お前はどちらを取る?

 直接そう言われたわけでもないのに、そう言われた気がした。そして、その問いに答えられないことを、ホシヒメは気付いていた。だからこそああ言ってくれたのだろう。馬鹿な僕でもわかった。
 僕はメイの温もりを覚えるかのように強く抱き締める。


 いつかその時が来るのだろうか。もし、万が一、その時が来たら、僕は――。