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ヒリュウに乗り込み、ホシヒメさん、私、ジャックの奇妙なメンバーでヒリュウが飛び立つ。ジャックがいることにホシヒメさんは少しだけ目を見開いていたが、何も言わなかった。それだけにどう思っているか気になるところだが、何も言わないでくれるホシヒメさんにホッと息を吐く。 このまま何事もなく蒼龍の武官の人のところへ着いてほしいと願うが、それは儚くも砕け散った。
「お前は主の付き人か?」 「あ、主?え?僕のこと?」 「そんなわけないじゃないですか!」
目を丸くさせるジャックに私は慌てて否定する。ホシヒメさんはきょとんとした顔をしていて、頭を抱えたくなった。ジャックは首を傾げながら口を開く。
「付き人って?」 「ジャックは気にしなくていいから」 「主は…貴公を好いているのですか?」 「な、何を言い出すんですかホシヒメさん!」 「…ふふ、冗談ですよ」
突拍子もないことを言うホシヒメさんに、私は恥ずかしくなり顔が火照る。冗談だと言うが、私にはそれが冗談に聞こえなかった。顔を手で扇ぐ私に、ホシヒメさんは笑みを浮かべる。からかわれているのだと気付くのに時間はかからなかった。 肝心のジャックは、ホシヒメさんの声が聞こえなかったのか、怪訝な顔をして私たちを見つめていた。
それからしばらくの間、三人の間に沈黙が流れる。ふと、ホシヒメさんが何を思ったのか、ジャックへ視線を移した。視線に気付いたジャックは、自然と背中をピンと伸ばす。
「ジャック、と言ったか」 「…そうだけど」 「お前は主のことを、どう思うておるのだ」 「主って…メイのことでいいのー?」
ジャックはちらりと私を見る。私が"主"と呼ばれているのが不思議なのだろう。なんて反応したらいいのかわからずにいると、ホシヒメさんがひとつ頷いた。
「どう思ってるって…メイは僕にとって一番大切な人で、」 「本当にそう思うておるのか?」 「え?」 「お前が一番に思うておるのは、主ではないのだろう?」 「………」 「ホシヒメ、さん?」
ホシヒメさんの言葉にジャックが眉間に皺を寄せる。ホシヒメさんはジャックを真っ直ぐ見据えていて、二人の間にピリピリとした空気が張り積めていた。 一触即発な状態に、仲裁に入ろうとしても、何故か声が思うように出てきてくれなかった。ホシヒメさんの問いに、ジャックがどう答えるか聞きたかったからかもしれない。
「主を、本当に守りたいと思うのならば、自分の意志を持て」 「自分の、意志?」 「私にはお前たちが、決められた道筋の上で歩かされているように見える」 「…なにそれ」 「お前はどうして主を好いているのか、考えたことはあるか?」 「………」 「…言い過ぎてしもうたようだ。すまない、忘れてくれ」
そう言うとホシヒメさんは軽く頭を下げ、視線をジャックから外す。ジャックは黙ったままだった。 二人の空気に、私が話しかけられる術もなく、また沈黙が流れた。そしてそれを破ったのは、地上から聞こえてきた声だった。
「ホシヒメ様!?」
第三者の声に、私はホシヒメさんを見る。私の視線に気付いたホシヒメさんは、笑みを浮かべ、すっと立ち上がった。
「ここまで連れてきてくださり、感謝いたします」 「え、いや、感謝されるほどじゃ…」 「この恩、一生忘れませぬ。では…また会う日まで、お元気で」
頭を下げるホシヒメさんに私もつられて頭を下げる。私がホシヒメさんを見上げると、ホシヒメさんはふわりと微笑みを浮かべ、そしてヒリュウから飛び降りた。
ホシヒメさんが居なくなり、私は一息つく。次の目的地は決まっていた。けれど、ホシヒメさんが居なくなってから、ジャックはまだ一言も言葉を発していない。ちらりと盗み見ると、ジャックは思い詰めている表情をしていた。私はおそるおそる話し掛ける。
「ジャック…?」 「え?あ、なーに?」 「あの…仲間のところに帰る?」 「…メイは帰らないの?」 「え、う、うん…」 「じゃあ帰らない!着いてくよー」
表面上は笑顔だけど、その笑顔は曇っているようにしか見えなかった。 それからしばらく黙ったままのジャックに、視線を向ける。ホシヒメさんに言われたことを気にしているのか、ジャックは難しい顔をして考え込んでいた。 私はそれ以上追求はせず、視線を前方へ移す。すると、不意に後ろから抱き締められた。
「ちょ…」 「ごめん…少しの間、こうさせて…」 「………」
ジャックの弱々しい声に、私は言葉を飲み込む。ただならぬ雰囲気に、私は肩を竦め小さく息を吐いた。
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