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 飛空艇から飛び降りると翼の音が耳に入り、ちょうどタイミング良くヒリュウの背中が足元に現れる。何とか背中に着地すると、私は前を見据え、五星龍の元へ急いだ。

 五星龍を目指す途中で、地上から呻き声が耳に届く。ヒリュウの背中から覗き込むように地上を見ると、逃げ遅れたであろう数人の候補生が蒼龍兵に囲まれていた。
 直ぐ様ヒリュウに行くよう指示し、私はサンダガを唱える。十分に距離を縮めると、蒼龍兵に向かって一気にサンダガを放った。


「うあ゙あ゙っ!!」
「?!」


 突然放たれたサンダガに候補生は驚き、サンダガが放たれた方向へ顔を向ける。そこへヒリュウに気付いた一人が攻撃を仕掛けようと構えるが、攻撃される前に私はヒリュウから飛び降りた。
 私に気付いた候補生が目を丸くする。


「お前…!」
「ここから北へ!そこに飛空艇を誘導しておくから、急いで!」
「!わ、わかった!」


 そう言うと候補生が北へ向かって駆け出していく。ふと蒼龍兵を見れば、不意打ちを食らったサンダガで伸びていた。
 候補生全員がいなくなるとすぐにCOMMでナギと連絡を取り合う。


「今、北へ向けて逃げ遅れた候補生を誘導させたから。あとは任せていい?」
『ああ、こっちは任せろ』
「ありがと」


 お礼を言ったあとCOMMを切る。試しに0組へ通信を取ろうとしたが、通信が繋がることはなかった。どうして通信が取れないのか、首を傾げる。同時に焦りと不安でいっぱいになった。
 伸びている蒼龍兵を置いて、私はまたヒリュウと空へ飛ぶ。

 五星龍に向かって飛んでいると、囁くような声が頭の中に響いた。


『覇者たる軍神よ――

    私の子供たちを

       蒼の守護者から護りなさい――』


 聞き覚えのある声に私は目を見開き、そして眉を寄せる。どうしてあの人の声が頭の中に…いや、それよりも言葉の意味が気になる。
 軍神、ということは召喚獣のことに間違いはないだろう。蒼の守護者、それは多分蒼龍のルシのことで、じゃあ"私の子供たち"って――。

 そこで私の思考は轟音によって停止させられる。五星龍の方へ目を細めて凝視すると、見たことのない軍神と五星龍が対峙しているのが見えた。
 バハムートのような姿をしているが、その姿は今まで見たバハムートとは違っていた。バハムートの中でも特殊なのかもしれない。その姿に圧倒されながら、バハムートと五星龍は激しくぶつかり合う。あの中へ飛び込む勇気はない。
 人間離れした戦いを私は見つめることしかできなかった。


『メイ?』


 COMMから聞こえてきたナギの声にハッと我に返る。


「あ、な、ナギ…!」


 切羽詰まるような声にナギは落ち着いた声で私を鎮める。そのお陰で段々と落ち着きを取り戻した私は、今の状況をナギにひとつひとつできるだけ丁寧に伝えた。


『バハムート…軍神か。0組の姿は?』
「それが…0組の姿が見当たらなくて」
『…いない、のか?』


 そう呟くナギに、私は軍神と五星龍の闘いを見つめる。軍神が五星龍の隙をついて攻撃し、五星龍が怯んだ時だった。
 怯んだ五星龍に攻撃を畳み掛けるかと思いきや、バハムートは力を溜め始める。どんどん増大していく魔力に、私はバハムートを凝視する。ここまで魔力を溜めるということは、次の攻撃は強大に違いない。きっと最後の攻撃になるだろう。
 私はヒリュウに安全な場所へ移動するよう命令するが、その攻撃がどんな攻撃かわからないし、そもそも安全な場所があるのかもわからなかった。
 そこで私は思い付く。バハムートの後方へ行けば衝撃は多少受けるかもしれないが、巻き込まれることは免れるはずだ。すぐにそれをヒリュウに伝え、移動を開始する。


「!」


 その間に、バハムートは攻撃態勢が整ったのか大きな翼を広げた。それを合図に、空に複数の魔法陣が現れる。そしてそこから無数の大きな火の玉が繰り出され、やがて五星龍へ向かって放たれた。
 炎に包まれ悲痛な叫び声をあげる五星龍に、思わず口元に手を当てる。炎に包まれたまま、空から崩れ落ちていく五星龍を、私はただ呆然と見つめることしかできなかった。