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私の言葉に周りはざわめいた。当然といえば当然だろう。単身でルシの近くに行くなんて無謀すぎる。自ら死にに行く様なものだ。 それでも状況を把握するにはこの手しかない。
「一人でなんて無茶だ!しかもどうやってあんなところに…」 「方法はあります。こんなときこそ、状況を把握できる人が一人でもいなきゃいけない。0組や他の候補生が生きているのなら一人でも多く助けないと」 「そうは言っても」 「行くんだろ?」
朱雀兵の言葉を遮りナギが口を挟む。ナギの顔は眉を寄せて反対だと言いたげな面持ちをしていた。 ナギの言葉に黙ったままひとつ頷くと、ナギは盛大に溜め息をついた。
「危険だと思ったらすぐ退けよ」 「わかってる」 「COMMは使えそうか?」 「ん、何とかいけると思うよ」 「で、でもナギ…!」 「一人でも多く助けたいならそうする他ない。それに皆も見てただろ?こいつがヒリュウから落ちてくるところを」
そう言うナギに朱雀兵はうっと言葉をつまらせる。他の朱雀兵もそれ以上口を開かなかった。そんな中、騒ぎを聞き付けたのか甲板にタチナミ武官が走ってこちらに向かっているのが見えた。反対されそうだと苦笑しながらもタチナミ武官へ向き直る。 タチナミ武官は息を切らして目を見開いていた。
「…本当にメイか?」 「はい。メイです」
確認するタチナミ武官に、私は懐からノーウィングタグを取り出す。任務の前に提出する決まりがあるが、私は提出していない。 死んだ後、私のことは一切周りに知らせたくないためにノーウィングタグを所持していた。そういう生徒は私以外にもポツポツいる。 私のノーウィングタグを確認したタチナミ武官はふぅと息を吐いた。
「無事で何よりだ…が、連絡もしないで今まで一体何処にいた?」 「…話せば長くなるので、その話は会戦が終わった後でもいいでしょうか?」 「長くなる…か、確かにそうだろうな」
タチナミ武官は納得したように頷く。納得してもらえて何よりだけれど、本当にそれで大丈夫なのだろうか。 いやそれよりも、と私は口を開く。
「今、五星龍に襲撃され0組や他の候補生がまだ戦場に残されていると聞きました」 「そうか…飛空艇を支える足場が持たなかったのだ。迎えに行こうにもあの状態では、こちらも殺られてしまい共倒れとなり得る」
そう言いながらタチナミ武官は黒煙の上がっている方へ目を移す。飛空艇からでは戦場の様子はわからない。迎えに行こうにも無闇に近付けないと苦虫を噛み潰したような顔で言う。 そんなタチナミ武官を私は真っ直ぐ見つめ、口を開いた。
「私があそこに行って様子を見てきます」 「!?君が…?しかし、どうやって」 「…許可を、お願いします」
許可されなくても行くけれど。そう心の中で呟きながらタチナミ武官を見つめる。タチナミ武官は黙ったまま腕を組み、そして諦めたように溜め息をついた。
「駄目だと言っても行くのだろう?」 「…よくわかりましたね」 「もう何年も君を見ていたからな」
苦笑混じりに言うタチナミ武官につられて私も苦笑を浮かべた。そして真剣な表情になる。
「危険ではあるが、あの子たちを助けるにはそれしか方法はない。行ってくれるか?」 「はい、任せてください」
力強く頷く私にタチナミ武官は微かに微笑む。ふとナギへ視線を移すと、ナギも何も言わずひとつ頷いた。やり取りを聞いた他の候補生や朱雀兵からも、声を掛けられる。
「気を付けろよ」 「どうか助けてあげて…!」
その声を背に私は甲板の端に足をかける。空へ飛ぶ寸前、タチナミ武官の声が背後から聞こえた。
「メイにクリスタルの加護あれ」
* * *
息も絶え絶えになりながら0組は膝に力を入れる。目の前には五星龍が立ちはだかり、0組を鋭い目付きで見下ろしていた。その目付きに0組は顔を歪める。
「くっ…もう魔力が…」 「はぁ、まさかここまでとは、な…」
エースの頬に汗が伝う。その顔は苦しそうだ。 ふと辺りを見渡すと他の仲間も顔を歪め、膝をつくものもいた。それを見てエースは拳を握る。 ここまでなのか、そう思いながら五星龍を睨み付けると五星龍はとどめだと言わんばかりに口を開き、炎を吐き出そうとした。
ジャックも息も絶え絶えに刀を握り締め五星龍を睨み付ける。五星龍を睨み付けながら、ジャックの脳裏に浮かぶのはメイの顔だった。 呆れる顔、驚く顔、困惑する顔、少し怒った顔、悲しそうな顔、微笑む顔。メイの様々な表情がジャックの脳裏に浮かぶ。 メイの記憶はまだある、メイはまだ生きている、探しに行かなくちゃ。そう思うと不思議と力が漲ってくる。立ち上がろうとするジャックに五星龍は間髪いれずに炎を吐き出した。
近付いてくる火炎に、もうだめなのか、そう諦めかけたその時。
『覇者たる軍神よ――
私の子供たちを
蒼の守護者から護りなさい――』
その声が聞こえた瞬間0組の姿は消え、魔法陣が現れる。そこから召喚されたのはバハムート零式の姿だった。
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