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思いがけない人物に私は身体が硬直する。ヒリュウはその人物の目の前へ降り立った。ヒリュウの背中に乗ったまま動けない私に、その人は安心させるかのように微笑みを浮かべた。
「そう怯えなくても大丈夫ですよ。あなたのことは既にソウリュウから伺っております」 「え…そ、ソウリュウ、から?」 「えぇ」
そう頷くその人物は間違いなくあのホシヒメさんで、私は顔を引きつらせる。敵であるホシヒメさんのところへ連れてくるなんて、ヒリュウを信じた私が馬鹿だった。 私は恨めしい気持ちを隠さずにヒリュウを睨み付ける。ヒリュウはヒリュウで我関せずな態度だった。 そんな私たちにホシヒメさんは苦笑しながら私の元へ近付いてくる。私がそれに気付き身構えるがホシヒメさんは首を横に振った。
「ここに連れてくるよう伝えたのは私です」 「……え?」 「ヒリュウを恨まないでやってほしい。すべては私の責任…それにそのヒリュウはあなたによくなついておりますし」 「えぇ…」
ホシヒメさんの言葉に思わずヒリュウへちらりと視線を移すが、すぐにホシヒメさんのほうへ戻した。
「私はあなたに攻撃しようなど考えておりません。どうか警戒を解いてはくれぬだろうか」 「…はい」
私がそう言うとホシヒメさんは安堵した表情になる。いつまでもヒリュウの背中に乗っているのも失礼なので、私はヒリュウの背中から降りホシヒメさんと向き合った。 ホシヒメさんの言われたことを私はおそるおそる聞いてみる。
「あの、ソウリュウから伺ったって何を…?」 「今までのこと、そしてこれからのこと、すべてです」 「………」 「あなたが信じられないのも無理はありません。私もそれを聞かされた時は信じられませんでした」 「今は…信じられるんですか?」 「そうですね…ソウリュウが戯れ言を言うようには見えませんから。それに、あなたの持っているその首飾りが何よりの証拠」 「首、飾り…あ!」
私の首もとに首飾りがあったことに気付く。私自身、これを身に付けた覚えはなかった。いつ、誰から、どのようにして渡されたのかわからない。覚えていないということはこれをくれた相手は既に亡くなってしまったということで、私はあまり気にしないまま首飾りをつけたままだった。 この首飾りのことを知っているホシヒメさんに、私は慌てて首飾りを外そうとするがホシヒメさんは私の手を取ってそれを止めさせる。目を丸くする私に、ホシヒメさんは真っ直ぐ私を見つめた。
「それはあなたが持っていてほしい」 「え…でもこの首飾り、もともと私のではありませんし…」 「確かに、その首飾りは我々蒼龍の国で作られたものです」 「じゃあ尚の事」 「ですがその首飾りは蒼龍の女王様から、あなたへの贈り物だと伺っております」 「…蒼龍の女王様?!」 「ソウリュウから伺ったので間違いはないでしょう。ですから、それはあなたが持ちこれからも身に付けていてほしい」
そう言うホシヒメさんに対し私は本当に持っていいものなのかと頭を抱える。 蒼龍の女王様がいつ私にくれたのかわからないが、なんでこんな大事なものを私なんかにくれたのか、女王様に聞きたいがそんなことできるわけもなく、私は溜め息をつくしかなかった。 どうしようもない気持ちに私は首飾りを見つめる。相手にとっても大事なものなのに、それを身に付けていてほしいと言われてしまった以上身に付けないわけにはいかない。 ホシヒメさんはどんな思いをしているのだろうと視線を移すと、ホシヒメさんは何故か首飾りではなくて、私自身を懐かしそうに見つめていた。 私の視線に気付いたホシヒメさんは照れたようにはにかむ。
「そんなに気を負うことはありません。きっと女王様があなたに何かを思ってそれを託したのでしょう」 「そう、ですかね…」
納得できないまま首飾りを見つめていると、蒼龍の武官がホシヒメさんの前へ現れた。それに気付いたホシヒメさんは目を細める。 私はそっと二人から離れてヒリュウの側で二人の会話を静かに聞くことにした。
「あまり、いい報告は聞けなさそうですね」 「はい……守護様たちが参戦している一部のエリアこそ戦況は拮抗していますが、その他のエリアでは……」 「もっとも被害の大きいエリアはどこです?」 「【朱】の存在が確認されています。南方第参地区です」
蒼龍の武官の言葉に思わず息を飲む。0組が無事だったことに安心はしたが、でも何故か嫌な予感がした。
「あそこを落とされるわけにはいかぬな……」
そう言うホシヒメさんの顔は、覚悟を決めたような、そんな表情だった。
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