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 青龍クリスタルが輝きを失うと辺りは一気に薄暗くなったが、今の出来事に頭がついていけない私は青龍クリスタルを呆然と見つめていた。
 クリスタルが語った言葉が頭の中で繰り返される。私という存在がわかったようでわからない。ただ、わかったのはクリスタルの言う光は多分自分だということだけ。

 結局クリスタルは何が言いたかったのか。

 悶々する私の後ろで、突然ヒリュウが翼を広げて慌ただしくなる。翼の音で我に返った私に足音が耳に入った。息を潜めて足音だけに集中する。この足音からしてモンスターではない。例えるなら、裸足の人間が大理石の床を歩いているような音に近かった。


(まさか人間…?!)


 味方の気配ではないと感じた私はすぐに攻撃ができるよう身構える。足音と一緒に呻き声も聞こえてきた。


「クワセロォォ」
「なに…?!」


 声と重なるように地面が割れ、その地面からナニかが這い出てきた。
 私は地面から出てきたナニかの姿に目を見開く。人の形をしてはいるけれど、とてもじゃないが人間とは程遠い姿だった。
 敵意剥き出しで近付いてくるソレに固まっていると、後ろにいるヒリュウが苦痛の声をあげた。その声に慌てて振り返るとヒリュウの体にソレが掴みかかっていた。
 私はすぐにサンダーを唱えソレに向かって放つ。ソレはサンダーをかわすかのように避け、ヒリュウの体から離れた。


(…まずい)


 周りを見渡すと物陰や地面から続々とソレが這い出てくる。ジリジリ詰め寄ってくるソレに私は眉をひそめ、ブリザガを唱え始める。


「…!」


 ブリザガを唱え始めた瞬間、すぐに魔力が溜まった。いつもなら少し時間がかかるはずだ。
 どうしてだろう、と疑問に思ったが呻き声をあげながら地を蹴り襲いかかってくる奴らに気付いた私は、ヒリュウの足を握り自分の真下にブリザガを放つ。ブリザガを放ったのと同時にヒリュウは空へと飛び立った。


「危なかった…」


 そう呟きながらブリザガを放った場所を見ると、結構な数の敵が凍りついているのが見えた。あんなに沢山いたのかとわかると身の毛がよだった。

 間一髪で抜け出すと私はヒリュウに戦場へ戻るよう伝える。するとヒリュウは私の言うことを理解したのか、煙が上がっている方向へ飛んでいく。
 戦場へ戻れることに安堵するが、まだ問題が残っていた。さて、ここからどうやってヒリュウの背中に戻ればいいのだろうか。手汗のせいかヒリュウの足から滑り落ちてしまいそうだ。しかし、今のこの状況ではどうすることもできないため、このまま行くしかないと覚悟した私は両手に力を入れた。
 ヒリュウの足にぶら下がる状態で暫く飛んでいると、ふと服の襟足の部分を何かに引っ張られているような感覚に気付く。私は眉を寄せて顔を後ろに向けようとした瞬間、襟足を思いっきり上へ引っ張られ、気付いたら宙を舞っていた。


「え?!…いだっ!」


 宙を舞ったあと私はヒリュウの背中に着地する。着地したといってもいきなり放り投げられたため受け身をとることができず、ヒリュウの背中に背中を強打してしまった。私を放り投げた本人は知らんぷりをしている。
 この方法を考えていなかったとはいえ助かったのは事実だが、もっと他の方法があったはずだと痛みを耐えながら思うのだった。

 背中の痛みも和らぎ、ようやく飛空艇が見える範囲まで戻ってこれた。飛び交うヨクリュウに気付かれないように私は姿勢を低くし、地上の様子を窺う。


「…なんかおかしい」


 地上は何故かほとんどがモンスターばかりで、蒼龍兵の姿が一向に見当たらない。一体何があったのかと疑問に思っていたそのとき、一体のヨクリュウが目に入った。


「!?あれって…!」


 地上で力なく倒れているヨクリュウに群がるのはさっき私たちを襲ってきた奴らだった。そいつらは我先にとヨクリュウを食している。
 蒼龍軍であるヨクリュウを食べるということは蒼龍の敵なのだろうか。
 そういえば蒼龍はモンスターを従えることができるはずなのに、奴らは従っている気配はない。ということは奴らはモンスターではないのは確か。そしてモンスターであるヨクリュウを食している姿かたちから人間の説もあり得ない。だとしたら奴らは一体なんだというのだろうか。
 人の形をしているのにその姿は、まるで何かに呪われてあの姿になったように思える。見ていられなくなった私は目を逸らすことしかできなかった。

 そしてヒリュウがある地点に近付くと突然急降下し始めた。その行動に愕然としながらも振り落とされないようにしがみつく。
 ヒリュウの目指す先へ視線の先を見ると、思いがけない人物が目に入った。その人物は急降下するヒリュウに気付くと、目を細め降り立つヒリュウに向き直るのだった。