177.5




 その頃、0組は敵を倒しながら氷の道を抜ける途中だった。氷の道を抜けた先は臨時指令部だ。
 そんな中、ジャックは走りながら先程現れた竜とメイらしき人のことばかり考えていた。


(どうしてあんな所に…いや、なんで敵であるヒリュウに蒼龍兵じゃない人が乗っていたんだろう。あれは僕の見間違いじゃなければ候補生だった…まさかメイじゃないよなぁ……しかも蒼龍兵に追われてたし…)


 メイだと確信しているわけではないがジャックはどこか腑に落ちないでいた。ジャックがさっき叫んだ名前は、ほとんど無意識に近い。
 それはジャック自身も気付いていた。それほどメイのことが気にかかっているのだ。ジャックは顔を歪ませながら拳を作る。


(…だめだめ。ここで僕だけで行動するわけにはいかない。今は任務のことだけを考えなくちゃいけないのに)


 冷静でいようとすればするほど、メイの顔が頭の中に浮かんで離れない。今どこにいるのだろう、怪我はしてないか、と本当は心配で堪らなかった。しかしそう思ったところで、メイに対し何も力になれない無力の自分に苛立ちも感じていた。

 ようやく朱雀臨時指令部に着くと、待っていましたと言わんばかりにナギが現れた。


「お、やっぱり生きてたみたいだねぇ。ま、それより、この先でちょっと手強いやつらがいて、何人かがこっちに合流できないみたいなんだよ。向こうに行くついでに助けてやってもらえないかな?」


 困った表情で言うナギに、0組は顔を合わせる。そこへ0組にタチナミから無線が入った。


『要請を確認。0組は生存者の救出に向かえ』


 上からの命令ならば仕方ない。
 その命令に0組は暢気に返事をする人もいれば頷きながら心配そうにぼやく人もいた。
 生存者の救出へ向かおうとすると、ナギがジャックの前に立ち行く手を阻んだ。そんなナギに、ジャックは首を傾げながら怪訝な顔でナギを見る。その表情はいつものような余裕綽々としているものとは違った。
 前を歩いていた仲間が着いてこないジャックを不思議に思い振り返ると、ナギに止められているジャックが目に入った。


「ジャック…?」
「あ、ごめーん!ちょっと先に行っててー!すぐ追い付くから!」


 そう言うジャックにナインは眉を寄せ、二人に声をかけようとするが、キングがナインの肩を掴みそれを制止した。納得がいかないナインにキングは諦めろと言わんばかりに首を横に振る。
 その他の仲間も顔を合わせ頷くと、ナギとジャックを置いて先へ進んでいった。

 仲間の足音が遠ざかり聞こえなくなると、ジャックは口を開いた。


「僕になんか用?」
「…悪いな、止めちまって」
「本当だよー、ま、別にいいけどさ。で、どうしたの?」


 やけに素直なナギに気持ち悪さを感じながらもジャックは問いかける。ナギの様子を観察しながら、ふと疑問を抱いた。


「そういえば…メイは?ここにいないの?…別行動?」
「…そのことなんだけど」


 ジャックの視線に耐えきれなくなったのかナギは溜め息をつきながら頭をかく。はっきり言わないナギにジャックは嫌な予感がした。


「メイは今、行方不明だ」
「え……?」
「ソウリュウのブレスの衝撃でメイが飛空艇から落ちた。…メイのことを覚えてるってことは生きてる証拠だ。俺も探してはいるけど、さすがにこんな時に別行動をするわけにもいかない」
「そんな、メイは今だに見つかんないんでしょ!?どうするのさ、もしメイに何かあったら」
「わかってるよ!でもどうすることもできねぇ、俺には俺の任務があるんだ。……それを放って探したところで必ず見つかるわけじゃない」
「そ、そうだけど…!」


 ナギは苦虫を噛み潰したような顔をする。ナギの言うことは最もで、ジャックは何も言い返すことができず、思いがけないナギの言葉に、ジャックは焦りを感じ始めていた。

 先程見かけた、追いかけられていた方の竜には本当にメイが乗っていたんじゃないか、もしそうだとしたら自分はなんてミスを犯したんだろう。
 顔を歪めるジャックに、ナギは深い溜め息をつく。


「…ま、一応そのことだけお前に伝えておいた方がいいと思って」
「…………」
「別に探してくれって言ってるわけじゃない。不安にさせて悪いと思ってる。ただ、俺がメイを想ってるように、お前もメイのことを想ってるからな…。あ、一人で探そうとすんなよ。今は自分に与えられた任務を果たせ。ま、お前もわかってるだろうけど」


 そう言うとナギは踵を返す。今のナギの言葉にジャックは眉をひそめ、歩き出そうとするナギの背に向かって声をあげた。


「やけにあっさりしてるね。メイが行方不明なのにさぁ」
「…さっきも言ったけど、覚えてるってことは生きてる証拠だろ。それを信じるしかない。それに……」


 そこまで言うとナギは振り返る。その表情はいつになく真剣な表情だった。


「約束したからな」
「約束?」
「絶対生きて帰ってくるって、あいつと約束したから」


 それを言うと同時にナギは駆け出した。
ナギの姿が見えなくなると、ジャックは目を伏せる。


(約束…か)


 お互いを信じ合えるメイとナギが少し羨ましかった。同時に沸々と嫉妬の念も沸いてくる。


(…僕も、あれは約束って言うのかな)


 この会戦が始まる前のことを思い出す。ジャックは何かを決意したかのように顔をあげ、先に行った仲間のもとへと走り出した。