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 背中を撫でていると気持ち良さそうに喉を鳴らして眠りにつく。ヒヨチョコボもチョコボにくっついて眠っていて、私はトンベリを抱えて静かに小屋から出た。


「いやー助かったよ。メイちゃんありがとな」
「いえいえ」
「あのチョコボ、すっかりメイちゃんになついちゃったね」
「………」


 ヒショウさんは言わないが、多分あのチョコボの世話を私に遠回しに頼んでいるんだなと悟る。まぁしょうがない、と肩を落としヒショウさんにあのチョコボの世話は私がやりますよ、と言うと案の定嬉しそうにお願いするよ、と言われてしまった。


「それにしてもあのチョコボ、品種は何ですか?」
「ああ、調べたところ、あのチョコボはニンジャチョコボだとわかったよ」
「ニンジャチョコボ…」
「野生じゃなかなか見られないのに、珍しいこともあるんだな」


 ニンジャチョコボ、それ故に警戒心も強かったのか。それなら納得はいくけど、ニンジャチョコボなんて滅多にお目にかかれないはずだ。誰かに飼われていた、というのもしっくりこない。飼われていたのなら人に慣れているはずだから。


「ま、また何かあったら呼ぶから」
「あ、はい」


 ヒショウさんと別れエントランスに戻ろうとしたら、魔法陣から誰かがやってきた。自然と目をそちらに向けると朱のマント、そして見覚えのある人物が飛び込んできた。


「あ」


 あの子は確かレコンキスタ作戦のときアクヴィで私を助けてくれた少年ではないか。少年は私が抱えているトンベリを見て目を丸くした。


「そのトンベリ…」
「あ、えーと」
「クラサメ隊長のだよな…」
「あ、はは」


 どうして、と疑問を投げ掛けてきそうな顔で私を見る。さすがにあの時助けたのが私だというのは気付かないだろう。あの時自分は朱雀兵という形でいたのだから。
 確かこの子はエースって言われていたような気がする。私の記憶が正しければ、だが。


「クラサメ隊長と知り合いなのか?」
「え、えーと…まぁ、」
「そうか…あ、すまない。トンベリが他の候補生と一緒にいるの初めて見たから」
「いやいや」


 それじゃあ、と魔法陣に向かって歩き出そうとすると待って、という制止の声と共に肩を掴まれる。少し気まずいと感じながらおそるおそる振り返った。


「どうかした…?」
「いや、なんかどこかで会ったことあるような気がして」
「え、…気のせいじゃないかな」


 会ったことは間違いなくある。しかもキミに助けられましたよ。でもあれは極秘任務であり君たちを監視していた、なんて口が滑っても言えない。本当に0組は鋭い子が多すぎる。


「そうかな…」
「気のせい気のせい」
「………」


 エースくんは何か思い当たる節があるのか、顎に手を当てて私を見つめる。いやいや、そんなかわいい顔で見つめられても私はなにも言わないしなにも出てこないぞ。


「……ああ」
「な、なに?」
「ジャックと付き合ってるっていう…」
「え!?」
「え…ち、違うのか?」
「全然違う!付き合ってるわけないよ!」
「そ、そうだったのか…」


 私とジャックが付き合ってるだなんてどこの誰がエースくんに言ったんだ。ジャック本人が言いふらして歩いている可能性もなくはない。出てきたら覚えてろと思っていたらエースくんからは意外な人物の名前が飛び出してきた。


「シンクがそう言ってたんだが違うのか。すまない、勘違いして…」
「シンク…?ジャックが言いふらしてたんじゃないの?」
「いやシンクから聞いたんだ。ジャックは9組の候補生と付き合ってるのかってシンクがジャックに聞いたら、付き合ってると言ったらしい」
「やっぱりジャックが原因じゃないの…!」


 シンク、という子はいつかのリフレッシュルームでトレイさんと一緒に居た子だ。天然そうな割には聞くとこ聞くんだなと呆れる。シンクちゃんにも次機会があったら伝えておこう。ジャックとは何の関係もありませんと。


「はぁ…エースくん、それは誤解だから、シンクちゃんにも誤解だって伝えておいて」
「ああ、わかっ……?僕の名前、なんで」
「!」


 しまった。エースくんからしたら私とは初対面なんだった。こいつ怪しい、というような目で私を見るエースくんに顔が引きつる。


「僕たち、初対面だよな」
「えーと、あれ、アレだよ。ジャック、そう、ジャックから0組の子のこと聞いてたの」
「ジャックが?ああ、それで」
「うん、そう!0組の子はだいたいわかるよ、うん」


 ここにきてまさかジャックが役に立つとは思わなかった。エースくんは納得したような感じで、私はホッと一息つく。


「初対面なはずなのに初対面な気がしないな」
「はは…まぁ、人伝からそれとなく存在を聞いてたからじゃないかな」
「ふ、そうかもしれない」
「あ、私はメイね」
「ああ、よろしく。それと僕のことはエースでいいから」


 君づけは慣れてないから、とナインと同じようなことを言うエースに、それナインも同じこと言ったよと言うと少し驚いた表情をした。


「ナインとも知り合ったのか」
「うん、まぁ成り行きでね。それじゃ、私行くね。またねエース」
「ああ、またな」


 とりあえずバレなくてよかった。それよりエースってすごい好青年だ。落ち着いてるしクールだし、ジャックとはまるで正反対な子で好感が持てる。
 ね、トンベリ、と目線を下に移せば、トンベリは私の腕の中で気持ち良さそうに寝ていた。赤ちゃんみたいなトンベリに私は小さく笑った。