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 薄暗い中で青く光るそれに私は恐る恐る近づいていく。その光は私に反応するかのように、徐々に輝きが増していた。
 光るそれの近くまで来ると、突然激しい耳なりに襲われた。この耳なりに私は覚えがある。この現象はあの時と同じだった。


(いたっ…)


 一度体験したからか、この痛みに耐性がついたようで片方の手で頭を抑え、顔を歪ませながら片方の手を光るそれに向かってゆっくりと伸ばしていく。そして伸ばした手の指先が冷たいものに触れた気がした。
 それを感じた瞬間、あの時と同じような声が頭の中に響いた。


( 時 は 近 い )
(またこの声…でもあの時の声とは少し違うような)


 あの時よりも低い、その声に私は眉を寄せる。同じようなことを伝えてくるそれに、苛立ちを隠せない私は今まで抱いていた疑問を痛みに耐えながらそれにぶつけた。


「私、は…私は一体、何者なのかっ…なんで私に、話しかけ、てくるのっ…!」


 痛みで途切れ途切れになってしまったが、今まで抱いていた疑問をそれに訴えかける。答えが返ってくる保証はない。答えが返ってこないとわかってはいても、疑問を吐けずにはいられなかった。
 痛みに耐えながら睨み付けるようにそれを見つめた。


( 光 は 我 々 の 願 い で あ り 希 望 で も あ る )
「………」


 誰かが独りよがりで語ってくる。きっと私の質問に答えはしないだろう。そう悟った私は、今度は何を教えてくれるのかと耳を傾ける。


( 長 年 の 歳 月 を 経 て 光 は よ り 輝 き を 増 し そ の 刻 を 待 ち 続 け た )

( 6億10万4972回 繰 り 返 さ れ た 世 界 そ し て 1000年 の 輪 廻 を 繰 り 返 し た 魂 を 呪 縛 か ら 解 き 放 つ た め に 光 は 生 ま れ た )

( 代 償 は そ の 光 自 身 )

( 選 択 肢 は 光 に 委 ね ら れ よ う )


 ひとつひとつの言葉の意味に、何となくだけれどそれを理解しつつあった。ただ、6億10万4972回という数字がわからない。
 繰り返した世界?1000年の輪廻を繰り返した魂?
 これが嘘だったら良かったのだが、とても嘘をついているようには見えない。どれも信じ難いことだらけで、でも今誰かが私に言っていることは真実に間違いはなくて。
 呆然とするしかない私に、誰かが優しく囁く。


( 我 は 青 龍 ク リ ス タ ル )

「…えっ」

( 残 り わ ず か な こ の 力 を 光 に 託 そ う )

「…力を?私、に?」


 そう言った後、目の前にある光…青龍クリスタルはより輝きを増した。その輝きに包まれると共に、身体が内側から熱くなる。それに包まれると不思議と力が沸いてきて、先の戦闘で消費した魔力が元に戻るどころか溢れるくらい回復した。戦闘でところどころ傷付いた身体も綺麗になっていく。


( ど ん な 選 択 に な ろ う と も 我 ら は 光 と 共 に )

( 悔 い な き 一 生 を 願 う )


 その言葉を最後に、青龍クリスタルは輝きを失った。