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 0組の頭上を通り過ぎてもなお追ってくる敵に、私はとりあえず0組を巻き込まずに済んでよかったと安堵する。そして、今度はこちらの状況を何とかしなくては、と気を引き締めた。


(とにかくヒリュウに乗りながらの戦闘は避けたほうがいいかも)


 ヒリュウに乗りながらの戦闘は私にとってかなり不利だ。先ほどの戦闘は何とか勝てたが、勝てたと言ってもほとんどマグレに近い。乗り慣れているならともかく、今日初めて乗った私には蒼龍兵みたいにヒリュウを巧みに操ることはできない。だから、ここは逃げ切るしかない。
 逃げ切る選択をした私に応えるように、ヒリュウは凍り付いた雲の隙間を縫うように飛ぶ。
 ここは私が指示するよりも、ヒリュウに任せたほうがいいかもしれない。そう思った私は風を受けないように姿勢を低くして身を委ねた。



 暫くして、ふと後ろを振り返ってみると、自分を追っていた蒼龍兵の姿はなく、凍り付いた雲だけが広がっていた。ホッと一安心している私を他所に、ヒリュウは止まることなく飛び続けていた。


(…?やけに静かな気がする)


 龍の鳴き声や、人の声、飛空艇の飛んでいる音が全くといっていいほど聞こえない。どこを飛んでいるのか私にはわからないが、敵も味方も見当たらないところを飛んでいるということは、戦場から遠ざかっているのだけはわかった。
 周りを見渡してみると、凍り付いた雲がところどころ見られるが、凍っていない雲もある。これはだいぶ戦場から離れているかもしれない。


「ね、ねぇ、君はどこ行こうとしてるの?」


 そう話しかけてみるが、もちろん返事が返ってくることはなくヒリュウはただただ飛び続ける。その飛び方はまるで何かに導かれているかのような飛び方だった。
 ヒリュウに話しかけても返ってこないし、だからと言ってここから降りるわけにはいかない。というか降りる場所がない。どこまで行くか不安ではあるが、ここは大人しくヒリュウが止まるまで待つことにした。


(…みんな、大丈夫かな)


 0組のこともナギのことも、覚えているということはまだみんな生きているという証拠。だけど安心はできない。
 どうか、0組もナギも死にませんように、今の私にはそう願うことしかできなかった。

 ヒリュウは戦場とか逆の方向へとどんどん突き進んでいく。このままどこに行くのか見守っていたが、さすがに不安の色が隠せないでいた。
 やがて、空から地上付近へと低空飛行し始めた。そして、地面の割れ目が見つかるとヒリュウはそこへ一直線に飛び込んだ。
 地面の中は薄暗く、異臭も放っていて気味が悪い。何よりところどころ殺気が感じられる。こんなところに人間が住んでいるわけがない、そう確信するがこの殺気は人間に似ていた。

 もしかして、ヒリュウはここで私を始末するためにここに連れてきたのかも。

 そんな不安が頭をよぎったそのとき、ヒリュウは徐々にスピードを緩め、そして地面へと降り立った。
 私はゆっくりとヒリュウから降りる。


(ここは…?)


 キョロキョロと辺りを見渡す。薄暗くて何があるかよく見えない。
 ヒリュウから離れないように手を体につけながら、少しだけ歩くとヒリュウの目の前に青く光る物が目に入った。
 私は目を細めながらその光へ近付くと、その光は私に反応するかのようにより一層輝きを増した。