多分きっと
「僕、別に君のこと嫌いじゃないよー」
そういうと君はきょとんとした顔をして、それから呆れたように溜め息をついた。なに、その反応。
「はいはい」 「…本音だよ?」 「はいはい」 「………」
どうせ戯れ言だと君は思ってるんだろう。まぁ、戯れ言だと思わせたのは紛れもない僕なのだけど。 頬杖をついて紙に筆を走らせる君の手を見つめていたら、ふと手が止まった。首を傾げながら顔を上げたら「またなんで急に?」と君は言う。 そういえば、なんでだろ?
「んー…」 「…もしかして適当に言った?」 「えっ、いやーそういうわけじゃないよー」 「ふーん…」 「なんでかなぁ…」
君はやっぱり呆れた顔をして、また筆を走らせ始めた。それを見ながら、自分が言った言葉の意味を考える。
なんで嫌いじゃない、なんて言ったんだろう。彼女のことは最初はなんか嫌な感じがして、なんか嫌いだった。関わりたくなかったのに、今は現在進行形で、自分から彼女に関わりを持ちつつある。何でかな…うーん、きっと色んな任務で一緒になったりしたせいだろう。でも、それにしてもこの暖かい気持ちになるのはなんで?
「…わかんないや」 「え?」
あの日から数日後。 目の前には血だらけになった、彼女の身体が横たわっていた。彼女のことがわかるということはまだ彼女は生きているということ。なんでかな。傷付いた彼女を見ていると胸の奥が苦しいんだ。 彼女は明らかに致命傷を負っていて、このまま容態が良くなることはないだろう。なけなしの魔法はすべて使ってしまった。僕にはもう、何もできない。ただただ、彼女が息を引き取るのを待つことしかできない。
「…ジャ、ク」 「…ん」 「そ…な顔、しな…で」 「……もう、喋らないで」
苦しそうに顔を歪ませながら言う彼女に、僕は拳を強く握る。そんな僕の手が彼女の小さな手で包まれた。ほんの少しだけ、温かい。ハッとして彼女を見ると彼女は力なく笑っていた。それを見て、僕は何故かあの日の光景が脳裏に浮かぶ。 今ならなんとなくわかる気がする。伝えなきゃ、まだ今を生きている彼女に。
「…多分きっと僕は、あの時幸せだったんだと思う。多分きっと僕は、君が好きだったんだと思う。多分きっと僕は、」
(次に生まれてくる時も、君と巡り会うんだろう)
(2013/04/25)
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