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 蒼龍兵を倒し終えた私たちは再び移動を開始した。目指す先はもちろん朱雀臨時指令部。一刻も早く戻り、現状を把握しなければいけない。COMMだけでは今どうなっているかきちんと把握できないからだ。
 ヒリュウの背中から周りを見渡すが、靄がかかってどんな状況かはっきり見えず私は焦りを感じていた。
 飛び続けること数分、ふと氷の道の途中で候補生らしき制服が目に止まった。


「!と、止まって!」


 慌ててヒリュウに制止の声をかけ、候補生を凝視する。マントの色は朱色だった。


「0組…!?」


 0組の誰なのか、と私は目を細めて確認しようとするが、突然ヒリュウのスピードが上がった。


「えっ、どうし…!」


 どうしたのかと問う前に、ヒリュウの鳴き声と蒼龍兵の声が背後から聞こえ、私は直ぐ様状況を察知する。
 自分たちを追い掛けてくる敵に、ふと0組の姿が視界に入る。ここで彼らを巻き込むわけにはいかない。
 私はすぐにファイアを唱え、敵に向かってファイアを飛ばす。ファイアは軽く避けられたが、その間に私とヒリュウは0組の頭上を通過したようだった。


「…!…っ!?」


 0組の頭上を通過した後、誰かの声が聞こえた気がした。けれど、敵に追い掛けられている今の私にはそれを聞き取る余裕などなかった。



*     *     *



 0組は任務のため凍り付いた雲の上を、敵を倒しながら進んでいた。
 ジャックはプリンの大群を一掃し終え、空を仰ぐ。


「…ん?」


 何かの気配を察知したジャックはすぐに攻撃ができるように刀を構える。そんなジャックの前に現れたのは、2体のヒリュウだった。
 そしてジャックはすぐにその2体のヒリュウの様子がおかしいことに気付く。


「…ヒリュウがヒリュウを追っかけてる、気がするなぁ」


 味方同士のはずなのに前を飛んでいる1体のヒリュウを、今にも殺さんばかりにもう1体のヒリュウが追い回していた。
 どうして味方同士なのに、とジャックは目を丸くさせて凝視する。そのうち、2体のヒリュウは自分たちの頭上を通過しようとしていた。
 ジャックは目を細めて追い掛けられているヒリュウを見つめる。追い掛けられている方のヒリュウの背中に、思いがけない人物が目に飛び込んできた。


「メイ!?」


 ジャックのメイの名前を呼ぶ声も虚しく響き渡るだけで、ヒリュウに乗っているであろうメイに自分の声が届くことはなく、2体のヒリュウは0組の頭上を通過した後凍り付いた雲の中へと消えていった。
 ジャックは呆然と立ち尽くす。そんなジャックに敵を倒し終えた仲間が怪訝な顔をしながら近づき声をかけた。


「いきなりどうしたんだジャック」
「メイがどうかしたのか?」


 行動を共にしているキングとセブンがジャックに話しかける。当の本人はヒリュウが消えていった方向を黙って見つめたままだった。
 何の反応を示さないジャックに、キングとセブンは顔を見合せ、ジャックと同じ方向へ視線を向けてみる。


「何もない、な」
「…あぁ」


 ジャックと同じ方向を向いてもそこには何もない。視界に映るのは青黒い空と、氷でできた雲だけだった。


「幻覚…なわけないだろうな」
「ジャックのあの反応、嘘ではないと思うが…」


 本当にメイだったのか、この場で唯一わかるのはジャックだけであり、一番驚いているのは見た本人なのだから、メイには間違いないだろう、と二人は考える。しかしメイを見たからといっても、メイの姿が確認できない限り今自分たちにできることはない。
 キングはふぅ、と一息つくと、ジャックの肩に手を乗せた。ジャックはビクリと肩をはねらせ、慌てて振り返る。


「先を急ぐぞ」
「…あ、う、うん、そうだねぇ」


 少しぎこちない返事になるジャックだったが、すぐにいつものような表情を浮かべて「急に大声だしてごめんねぇ」と何事もなかったかのように振る舞うのだった。