自分の命と




 戦争の最中だというのに魔導院は戦争中というのを忘れてしまうくらいクリスマスムード全開だった。軍令部から出て階段を降りずにエントランスを見渡す。男女のアベックがいつもよりも多くエントランスに集まっていた。



(平和だなー)



 私は頬杖をつきそれをぼんやりと見つめながら溜め息をつく。羨ましいとは思わない。むしろクリスマスというのを理由に、現実から目を背けているような気がして私はあまりいい気はしなかった。



「メイー!」
「………」



 聞き慣れた声が私の耳に届く。声した場所に目を移せば、いつもの笑顔を浮かべながら私に向かって手を振っているジャックの姿が目に入った。わかりやすく肩を落とせば、ジャックは軽やかな足取りで私に駆け寄る。



「部屋にもいないしクリスタリウムにもいないと思ったら軍令部に居たんだねぇ」
「何の用?」
「あはー、メイってば相変わらず冷たいねー」



 へらへら笑うジャックに私は眉間にシワを寄せた。冷たくて結構、それだけ言うと私は階段を降りて魔法陣に向かう。



「ちょ、待ってよー!」
「ジャックに構ってる暇はないんです」
「えぇー、ちょっとくらい構ってくれたっていいじゃーん」
「急いでるから」
「そう言う割りにはさっき軍令部の前でぼんやりしてたよねぇ」
「…うっさい」



 こいつはいつから私を見ていたんだ。そう思いながら私は急ぎ足で魔法陣へ向かう。魔法陣に入り寮へ向かうが隣にはもちろんジャックの姿があり、私は深い溜め息をついた。



「溜め息つくと幸せ逃げちゃうよー?」
「幸せなんかいらん」
「あっ、僕が幸せにすればいいじゃん!僕ってばあったまいいー!だからメイ、安心してね!」
「私はそれよりもジャックの頭が不安でしょうがないよ」
「えっ、僕のこと心配してくれてるの?えへへ、照れるなぁ」
(こりゃ重症だ)



 今のジャックには何を言っても聞かないだろう。むしろ私の言うこと全てをいい方向へ変換して捉えるに違いない。
 私は口を閉ざし黙ったまま足だけを動かす。ジャックは鼻歌を歌いながら当然のように着いてきていた。



「ねぇねぇメイー」
「………」
「もうすぐクリスマスだねぇー」
「………」
「メイのクリスマスの予定はもちろん僕とだよねー」
「……残念。私は今日から任務で月末まで帰って来られないから」



 それよりも無事に帰って来れるか、なんだけどね。そう付け加えながら呟く。
 ジャックは残念がるのかと思いきや、そうなんだー、と未だテンション高めに頷いていた。なんだそのリアクション。ジャックのそのリアクションに納得できず、視線をジャックに移すと、ジャックは笑みを浮かべながら口を開いた。



「実はねぇ、僕もさー今日から任務なんだー」
「…ふーん、それはご愁傷様なことで」
「それがさぁ別にご愁傷様じゃないんだよねぇ」
「?どういうこと?」



 そう言うけれどジャックはそれ以上は何も語らず、ただ一人で楽しそうに笑うだけだった。





「…あれってそう言う意味だったのか…」
「んー?なんか言ったぁ?」
「いや別に…」



 蒼龍地区偵察任務。
 今日から月末までの任務に、まさか0組からジャックが派遣されるとは思いもよらなかった。0組から一名が派遣されると聞いたのは任務当日、しかも出発した後に聞かされ私は頭を抱えるしかできず、とにかく今日から月末までの数日間、自分の命よりも貞操のほうを守らなければと気を引き締めるのだった。

(2012/12/22)