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 朝起きて、部屋から出るとトンベリが部屋の扉の前で立っていた。すれ違う人がトンベリを見ては足早に去っていく。
 私は辺りを見渡してみるがクラサメ隊長の姿はなく、どうやら一人?で来たようだった。私はトンベリの前に腰をおろす。


「どうしたの?クラサメ隊長は?」
「………………」
「…そう」


 クラサメ隊長は自室で休憩中らしい。トンベリは私に会いたくて自ら出てきたようだ。トンベリもチョコボ牧場に行くか尋ねたら、こくんと頷いたのでトンベリを抱き上げて歩き出した。

 トンベリを抱いているからか、すれ違う度に候補生が振り返る。振り返るのも無理はない、クラサメ隊長以外の人がトンベリを抱き上げて歩いているのだから。
 エントランスに出るとカルラが私に気付き、私が抱えているそれを見ると目を丸くさせてこちらに近付いてきた。


「メイ!?な、なんでトンベリ…?」
「ああ、私とトンベリ友達なんだ」
「あらそうなの……て納得できるわけないじゃない!」
「まぁ色々あったの」


 深くは突っ込むなと言うとカルラは突っ込まない代わりに、と右手を出してきた。アホかと右手を叩くとカルラは眉間に皺を寄せた。


「友達ねぇ…」
「な、なにさ」
「モンスターと友達だなんてメイも変わってるわね」
「ほっといて」


 カルラは冗談よ、なんて言っているが冗談だとは思わなかった。カルラはハッキリいう子だというのは私がよくわかっているからだ。私これから授業だから、と言いカルラと別れた私とトンベリは魔法陣でチョコボ牧場へと向かった。

 チョコボ牧場に着くとヒヨチョコボ2匹がお出迎えしてくれた。私はトンベリをおろし、ヒヨチョコボに仲良くしてね、と言うとわかったと言わんばかりにヒヨチョコボたちは鳴く。
 オオバネさんが驚いた表情でこちらを見ているのに気付いた私は話しかけた。


「オオバネさんごめんなさい。トンベリ、連れて来ちゃって」
「あ、ああ、いや驚いたな…。まぁヒヨチョコボとも仲良くやれそうな雰囲気だし大丈夫だろう。それにしても、トンベリとどういう関係なんだ?」
「ただの友達だよ」


 友達か、と呟くオオバネさんの後ろからヒショウさんが大きく手を振っていた。どうやら私に気付いたらしい。


「メイちゃん、急に呼び出してごめんな」
「いえ、全然。でもどうしたんですか?」


 いつの間にヒヨチョコボ2匹とトンベリが私の足元にいるのを尻目に、ヒショウさんに尋ねた。今日ここに来たのはヒショウさんの頼み事を聞くためだ。


「ちょっとこっちに来てくれないか」
「え、」


 ヒショウさんは小屋の一番隅の方へ歩き出す。確か一番隅の小屋はほとんど使われていなくて、今は空になっているはずだ。ヒヨチョコボ2匹とトンベリを踏まないようにヒショウさんに着いていく。


「この子なんだけど」
「………あ」


 小屋の中には一匹のチョコボがいた。成チョコボでもないしヒヨチョコボでもない、所謂中途半端な成長を遂げているチョコボがこちらを睨み付けながら座っていた。身体は全体が紫がかっていて、見るからに普通のチョコボとは違うのがすぐわかる。
 ヒヨチョコボ2匹はそのチョコボに近寄り、元気よく跳び跳ね、トンベリは私の隣でチョコボを覗き見ている。この子がどうかしたのか、と聞くとこの辺に迷い込んできた野生のチョコボなんだ、とヒショウさんは言った。


「なかなか人になつかなくてな。近寄ったら攻撃されてしまうし、警戒心をなかなか解いてくれないんだ。まぁ野生だから仕方ないかもしれない。でも、いつもなら2、3日で慣れるチョコボがもうこれで10日目になる」
「そう、なんですか」
「餌にもなかなか食い付かなくてね。このままだと餓死してしまうかもしれないんだ」
「餓死…」


 確かにチョコボの身体は痩せ細っていて、元気もなさそうな様子だ。
 チョコボは私の目を見るなり小さく鳴いた。その行動に私も驚いたが一番驚いたのがヒショウさんだった。


「やっぱりメイちゃん呼んで正解だったな」
「え?」
「メイちゃん、トンベリと仲良いだろう?クラサメ士官以外にトンベリと仲が良いメイちゃんなら野生のチョコボの面倒も見れるかと思って」
「や、それとこれとは…」
「そうだ、今日まだ餌与えてないんだ。今からメイちゃんが餌与えてくれるかい?」
「………」


 仕方なく頷くとヒショウさんは嬉しそうに餌を取りに行く。私は溜め息をついて、チョコボに向き合う。チョコボの身体に所々傷付いているのを見つけ、きっと迷い込んで保護されてからも暴れたりしたのだろう。治療をしようにも暴れるもんだからきちんと治療できなかったのかなと推測する。
 そんなことを考えていたら、チョコボはゆっくりと立ち上がり私の元へ近付いてきた。撫でてほしいのか首を私の方へ近付ける。


「あっ!メイちゃん、その子…」


 要望通りチョコボの首の裏を撫でていたら、ヒショウさんが餌を持って帰ってきた。ヒショウさんはまた驚いた表情でこちらを見ている。


「あ、ヒショウさん」
「……やっぱりメイちゃんを呼んでよかったよ」
「?」


 チョコボは目を細めて気持ち良さそうに撫でられていた。