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 蒼龍兵が空へと投げ出され乗り手がいなくなったヒリュウは、どうすればいいのかわからなくなったのか私たちの前から飛び去って行った。
 私を乗せたヒリュウはそれに構うことなくまた翼を羽ばたかせ移動する。飛び去って行くヒリュウを尻目に、私はCOMMを指で耳に押し当てた。


『……に展開していた兵の位置確認に問題が出ている!連絡を聞いた該当者は旗艦へ連絡せよ!』
(連絡…あ、そういえばナギは…!?)


 ナギの存在に気付いた私はすぐにナギのCOMMへ連絡しようとする。しかし、突如感じた背後からの殺気に、私は咄嗟にヒリュウの毛を力一杯握った。殺気を感じたであろうヒリュウも、すぐに体を旋回させる。
私はそっと顔だけを後ろに向けると、少し距離は開いているが蒼龍兵を乗せたヒリュウが私たちの後を追って来ていた。


(これじゃあ迂闊に指令部に行けば皆を巻き込んでしまう…!)


 もう戦う他ない、そう決心した私は魔法を唱えつつヒリュウに、相手の真上を取るよう命令した。命令を無視することなく、ヒリュウは私の言うことを聞き入れてくれたようで、相手の攻撃を避けながら、相手の真上を取ろうと何度も体を旋回させる。


「くそ、小賢しい小娘が!」


 なかなか攻撃が当たらないことに蒼龍兵は苛立ちを隠せないでいた。
 魔法を唱え終えた私は相手の動向を見ながら、攻撃を仕掛けるタイミングを図っているとヒリュウが突然真上へ飛び上がった。


「うわっ…!?」
「なっ?!」


 ヒリュウの毛を強く握っていたお陰で落ちはしなかったが、いきなり角度が90度になったのにはさすがに驚くだろう。そんなヒリュウの行動に目を細めながらも相手より真上にいることに気付いた。そして急に飛び上がったと思ったら今度は真下に急降下し出した。
 勢いよく風が顔にかかり息ができなくなるが、ヒリュウの努力を無駄にするわけにはいかない。急降下してきた私たちに驚く蒼龍兵の姿を確認しながら、私は少しだけ手の力を緩め、タイミング良く相手のヒリュウに飛び移り手を相手の目の前にかざした。


「何…っ」
「サンダガ!」
「ぐぁ…!?」


 バチィッと大きな稲妻が相手を襲うなか、私はすぐに足を蹴って相手のヒリュウから夜空へダイブする。すると待ってましたと言わんばかりにヒリュウが現れ、ヒリュウの背中に無事着地したあと相手のほうへ顔を向けると、サンダガを諸に喰らった蒼龍兵はヒリュウの背中で力なく倒れていた。
 相手のヒリュウは主人が殺られたのだとわかると、私たちに背を向け逃げ去っていった。


「はぁ、はぁ…」


 肩で息をする私を余所に、ヒリュウはゆっくり移動を始める。私は感謝の意味を込めてヒリュウの背中を一撫ですると、ヒリュウが少しだけ鳴いた、ような気がした。