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真っ逆さまに落ちる私は諦めて目を閉じた。目を閉じれば周りの音が余計耳に響いて聞こえる。 ドラゴンの鳴き声や飛空艇の飛んでいる音、何かが壊れている音、誰かの悲鳴が休む間もなく耳に届く。凄まじい轟音に私は恐怖心が芽生えた。 死ぬ覚悟はできていた、はずなのに。今更助かる見込みもないのに、恐怖心が芽生えるなんて。 私の本心は今はまだ死にたくないのだと訴えていた。不思議と拳に力が入る。 私はまだ、死にたくない…!そう思った瞬間、何かの気配を察した私は目を開けた。
「…!?」
目を開けるとすぐそこに蒼龍のドラゴンが真っ直ぐ私に向かって降下していた。あのドラゴンは確かヒリュウだ。私に止めを刺しに来たのだろうか。 真っ直ぐ近付いてくるヒリュウに私はどうしたらいいかわからず、ただただ見つめることしかできなかった。
「…え、」
ヒリュウは自分を攻撃するかと思われたが、何故かヒリュウは私を素通りしていく。どうして素通りしていくのだと顔だけを下へ向けるとヒリュウはちょうど私の真下にいた。 何をする気なんだ、と目を見張っているとヒリュウの背中に徐々に近付いていくのがわかった。 このままじゃヒリュウの背中とぶつかる!そう思うと同時に、私の身体はヒリュウの背中と接触した。私は咄嗟に目を強く瞑る。
「いっ……?」
多少の衝撃に私は顔を歪ませるが、ほんの少し衝撃があっただけでそれほどダメージは負わなかった。背中から伝わる熱とごわついた触感に私は恐る恐る目を開ける。
「………」
目を開けると自分の手にはごわついた毛が絡まっていて、そして大きな翼が目に入った。辺りも真っ逆さまだった風景がいつもの風景へと変わっている。 ゆっくり身体を振り返らせると、ヒリュウは翼を羽ばたかせながら声高く鳴いた。
「な、んで…」
唖然とする私にヒリュウは構わず上空へと勢いよく羽ばたく。いきなり動いたヒリュウに私は咄嗟にヒリュウのそのごわついた毛を掴んで離れないように身を背中へ寄せた。 冷たい風が一気に私を襲う。ヒリュウは一体どこへ行くつもりなのか。いや、それよりもどうしてヒリュウは私を助けたのだろうか。
(……助けた?)
所謂モンスターが私を助けたということ。そう考えて、ふと私はあの時のことが頭をよぎった。 白虎に捕らわれそうだったとき、モンスターであるクアールに助けられたことがあった。どうして助けてくれたのか、今でも謎のままだ。それにクアール以外にも不思議なことはあった。 ロリカ同盟に行くときに通った洞窟で、モンスターが私に襲いかかることなくただ見つめていたこと。皇国軍で飼い慣らされていた軍用クアールも私に襲いかかることはなかった。 そして今も、ヒリュウというモンスターが何故か私を助けてくれた。なんの意図があって助けてくれたのだろう。もう何が何だかわからない。
『……へ。これより凍り付いた雲を足場とした白兵戦へ移ってもらう』 「!」
ふとCOMMの通信が繋がる。この声はタチナミ武官だ。どこの組への命令だろうか。 COMMへ神経を集中させたいが未だヒリュウは止まることなく飛び続けていたため、ドラゴンに乗ったことが初めてな私はCOMMよりもヒリュウから落ちないように必死にしがみつくことしかできなかった。止まることをしないヒリュウに、所々通信が途絶えてしまい朱雀軍の戦況が把握できない。
「…っお願い、ちょ、っとだけ、止まって…!」
ごわついた毛をグッと握り顔を俯かせ、懇願するようにヒリュウへ声をかける。モンスターであるヒリュウに私の言葉が届くかはわからないけれど、今はただ懇願するしかなかった。 すると私の言葉を聞いてなのか驚くことに、ヒリュウは徐々に速度を落とし始めた。
「え、」 『……た氷上が戦場になっています。展開してる部隊は集結してください』 「…集結、ということは臨時指令部のところ、か…」
急に大人しくなったヒリュウを見ながらCOMMの通信に耳を傾ける。今の通信で、皆が今どこに向かおうとしているのはわかった。 私はどうやって朱雀軍臨時指令部に向かえばいいか頭を捻らせていると、突然ヒリュウが右へ大きく傾いた。いきなり動き始めたヒリュウに、私は咄嗟にヒリュウの毛を掴む。
「ちょ、どこに…」 「何故朱雀兵がヒリュウに乗っている!?」 「!」
どうやら蒼龍兵の乗ったヒリュウが私に向かって突進をしてきたようだ。ヒリュウに掴まりながら、蒼龍兵の乗っているヒリュウへ目を移すと自分の乗っているヒリュウとは違い、頭に何かの飾りを身につけているのが見えた。
「受信機を身に付けていないヒリュウなんていたのか…!」 「受信機…?うわっ!」
ヒリュウはまた突然方向転換をして、今度は蒼龍兵の乗っているヒリュウに向かって突っ込んでいく。何をするつもりだとヒリュウの毛を強く掴み、体勢を低くして目を細めて正面を見つめた。 真正面から突っ込んでいくヒリュウに、蒼龍兵は面を食らったのか慌てて自身のヒリュウで対抗しようとするがもうすでに遅く、蒼龍兵の身体は空へと投げ出された。
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