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 シュユ卿とルシ・ソウリュウが交戦に入ったことにより、両軍の通常戦力同士の消耗戦に突入した。
 私は窓からアキシモへと視線を移す。アキシモはドラゴン部隊と対峙していて、0組が朱雀タレットを使い応戦しているのが微かだが見えた。
 飛空艇に数体のドラゴンがまとわりついている。その一体が甲板へと降り立った。0組慌てる様子もなく、甲板に取りついた竜を難なく倒す。それを見て安堵の息を吐くと共に、ある通信から連絡が届いた。


『五星龍と遭遇した!援護を!援護を頼む!』
「五星龍…?」


 五星龍とは何なのか。遭遇したって、どこで遭遇したのか。
 各々の通信兵は突然現れた五星龍の存在に混乱しているようで、現状報告ができなくなっていた。小さな窓から状況が把握できなくて、私は我慢しきれず甲板へと駆け出そうとした。だが誰かに腕を掴まれ、足が止まる。


「甲板に出るのか?!」
「え、」
「俺も行く!」


 腕を掴んだ相手はナギで、ナギの手は腕から私の手へと移動する。私はナギに手を引かれ、甲板へと飛び出した。
 甲板に出ると、戦闘員が朱雀タレットを使って飛空艇を守ってくれていた。それを横目に、私とナギは飛空艇の端へ移動し現在の朱雀の状況を確認する。


「ひでぇ…」
「酷い…」


 現状は思ったよりも酷く、襲われたであろう飛空艇が黒い煙をあげ炎に包まれていた。その飛空艇は炎をあげながら、目の前を通過するとその飛空艇に止めを刺すかのように見たこともない大きな龍が飛空艇へ攻撃をする。その龍は体つきがソウリュウとは違い、頭が3つあり図体もソウリュウよりでかい。攻撃を受けた飛空艇は機体が横に傾き、そして真っ逆さまに空から落ちていった。

 その大きな龍を見て、さっきの通信兵が言っていた五星龍というのはこの龍のことか、と呆然と見つめる。


「っぶね!」
「!わっ」


 ナギが私の体を押さえて低くさせると、その頭上を竜がギリギリで通り抜ける。ナギは咄嗟に近くにあった朱雀タレットを使い、その竜を撃ち落とした。


「あ、りがと…」
「おう、もうここは危ねぇから中に」
『シュユ卿がソウリュウと交戦中。辺りの部隊は直ちに退避して下さい!』
『前方にソウリュウ!来ます!ブレス攻撃!衝撃に備えてください!』
『!!デカイのが来るぞ!』
「「!」」


 その通信を聞いた瞬間、目が眩むような閃光と強い衝撃が私たちを襲った。辺りが一気に白い光で埋め尽くされる。飛空艇もその衝撃に耐えられず大きく上下に揺れ、身体が浮かぶのがわかった。


「メイ!」
「ナッ」


 ナギが私の名前を呼び、繋いでいた手を離すもんかと強く握りしめるが、自身の身体は引力に引っ張られその繋いでいた手はいとも簡単に離されてしまった。
 宙に浮かび、身体は下へと降下していく。
 あの衝撃で身体ごと外へと放り出されたのだと気付くのに時間はかからなかった。真っ逆さまに落ちていく私の目には、先程まで自分が乗っていたであろう飛空艇がどこかを損傷していることもなく飛び続けている。それを見てホッと安堵する反面、自分はここで終わるのか、となんとも言えない気持ちが私を襲った。

 結局ムツキやナギとの約束も果たせることもなく、ジャックにもプレゼントを渡すこともできず、少し未練が残った気がしないでもないが、なんだかんだ今まで楽しかった。悔いがない、と言えば嘘になるけれどそれなりに満足だった。

 もうどうしようもできないこの状況に、私は諦めるように目を閉じてごめんね、と呟いた。