悩める彼女のために



 大規模な作戦が終わり、0組も本格的に活動することとなった。自分たちに隊長もできたし、クラスもちゃんと用意された。
 あの作戦から0組は一目置かれているようで、擦れ違う候補生からは珍しいものを見るような目で見られていた。まぁそんなの、僕の場合気にするどころか少し舞い上がっちゃったりしてるけどね。
 鼻歌を歌いながら初めて魔導院のリフレッシュルームに足を踏み入れる。そういえばどうやって頼めばいいんだろう?他の皆は僕と同様、魔導院を回りに行ったはずなのに、リフレッシュルームには僕一人しかいなかった。なんでリフレッシュルームに僕だけしか来ないんだろう。ナイン辺りは来てても不思議じゃないのになぁ。



「マスター、紅茶ひとつくれる?」
「お、やぁ、メイちゃん。任務から帰って来たのかい?」
「ん、まぁそんなところ」



 僕がどうしようか悩んでいるところに、ちょうどお手本を見せてくれた候補生の女の子がいた。なんだ、ああいう風に頼めばいいんだ、と僕は安堵の息を吐き、その彼女の座っている席からひとつ開けて、カウンターに座る。



「僕にも紅茶くださーい!ミルク付きで!」
「ん?あ、キミは0組の子じゃないか。はは、元気が良いなぁ。じゃあ少し待っててくれるかい?」
「はーい」



 マスターと彼女に呼ばれたおじさんは僕のスカーフを見て、すぐに0組だとわかったらしい。すごいなぁ、さすが朱色。目立つだけある。そんなことを考えながら、ふと隣に視線を向けると、ちょうど彼女も僕を見ていたのか、バチッと目が合った。僕はすぐにお得意の笑顔で、こんにちはー、と挨拶をする。



「…こんにちは」
「さっきはどうもありがとうー」
「え?」
「キミが紅茶頼んでなかったら、僕どうすればいいかわかんなかったからさぁ」
「あ、そう…」



 変な奴だと思ったのか、彼女はすぐに視線を前に戻す。人見知りなのかなぁ、と思いながら彼女のスカーフに目を移すと僕とは色が違う紫色のスカーフを巻いていた。
 あぁ、そういえばスカーフの色によって組が違うんだっけ。じゃあこの子はどこの組だろう。わざわざエースに聞くのも面倒だし、今この子から聞いたほうが早いよねぇ。



「ねぇねぇ、キミは何組なの?」
「え…9組だけど」
「9組?どんな組?」
「……落ちこぼれ組だよ」



 僕が話し掛けると彼女は驚いた顔をする。僕の質問に彼女はそれだけ言うとすぐに顔を俯かせた。



「落ちこぼれ組?そんな組、あるんだねぇ」
「9組は0組や他の組とは違うから」
「具体的に何が違うの?」
「…なんでそんなに聞きたがるの」
「え、だって気になるじゃん。キミみたいな人が落ちこぼれ組だなんて、僕には信じらんないもん」
「……はぁ」



 わざとらしく溜め息をつく彼女に、僕は首を傾げた。何か悩みでもあるのかなぁ。そう思った僕は今の席からひとつ移動して、彼女の隣に座る。彼女は僕の行動に目を丸くさせて僕を凝視した。



「な、なに…?」
「んー?なんか悩みでもあるのかなぁって。僕でよかったら話聞くよ?」
「は?…悩みなんてないけど」
「僕には悩みがあるように見えるなぁ」
「…余計なお世話なんですが」
「どんな悩みでも誰かに話せば楽になるよー!僕がその悩みを聞いて、解決法を見つけてあげる!」
「いや人の話聞きなよ…」



 頭を抱えながら溜め息をつく彼女に、僕は笑みを浮かべて悩める彼女を見つめた。

(結局悩み事を聞くことはできなかったけど、僕は悩める彼女のためにリフレッシュルームに通いつめるのでした)

(2012/10/17)