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――午前0時丁度。

 諜報部隊、東方の対蒼龍へ向け出発。次いで候補生部隊が出発した。
 真っ暗な暗闇の中、月が雲の間から見え隠れしている。今から蒼龍と戦う。相手は皇国とは異なり、モンスターを操り攻撃をしてくる。朱雀はそれに対抗するため、飛空艇に取り付けてある朱雀タレットを使い応戦する形だ。もちろん、候補生部隊が召喚する軍神も作戦の内に入っている。
 周辺は嵐の前の静けさのように静まりかえっていて、私やナギ、他の諜報部員も息を飲み込み目を凝らすように警戒する。


「静かだな…」
「…逆に不気味ね」


 そんな会話を聞きながら、私は飛空艇の窓から外を見つめる。蒼龍はドラゴンを使って攻撃をしてくるはず。きっと雲に紛れてこちらの様子を伺っているのだろう。
 飛空艇は徐々に蒼龍の国境へと近付いていく。もうすぐ、蒼龍との戦いが始まる。





――午前2時51分

 朱雀・蒼龍国境のジュデッカ海峡上空に両軍は遭遇。辺りは緊迫感に包まれた。
 どちらが先に仕掛けるか、はたまた仕掛けられるのか、お互い緊張が走る。私もナギも他の飛空艇と連絡を取りながら、いつ仕掛けてくるかわからない蒼龍軍のほうを睨み続けていた。


「ソウリュウの気配はまだない、な」
「わかんねぇぞ、あの雲の中に隠れてるかもしれねぇ…」
「それにしてもなんだよあのドラゴンの量…」
「あぁ、あんな量のドラゴン、今まで見たことねぇ…」


 諜報部員の会話を耳に外へ意識を集中させる。ドラゴンの量はざっとみて1000体は軽く超えているだろう。数は蒼龍のほうが確実に勝っていて、それを目の当たりにした候補生たちは何を思うのか。
 こんな量のドラゴン相手に勝てるのだろうか。蒼龍のルシ・ソウリュウに勝てるのだろうか。自分たちは生きて帰れるのだろうか。
 候補生たちのそんな気持ちがひしひしと伝わってくる。私も生きて帰れるかな、と視線を落とした。ふと自分の小指を見て、ぐっと拳を作る。
 約束したんだ、ムツキとナギと、必ず生きて帰るって。絶対生きて帰って、ジャックにもあのプレゼントを渡すんだ。無駄にしないために。


「ルシ・ソウリュウ、現れました!」
「!」
「各員、連射砲準備!攻撃態勢に入れ!」


 飛空艇の小窓から外を見る。そこには蒼龍軍ルシ・ソウリュウが遥か上空で、朱雀を見下ろすように飛んでいた。
 食い入るようにソウリュウを見つめる。ふと時計に目を移すと、時刻は午前4時18分を示していた。
 再びソウリュウのほうへ視線を移すと同時に、ソウリュウの口から青い光が放たれた。