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 発着所に着くとナギが私に気付き手を振って出迎えてくれた。ナギがもういるとは思わず急いでナギの元に駆け寄る。


「よう、随分早いじゃねぇか」
「え、もう出発するんじゃないの?」
「ちげぇよ。俺は最終確認するために早く来ただけ」


 そう言うナギの手には最終確認のためのファイルが握られていた。あぁそういうことか、と納得していたらナギは首を傾げながら「お前こそ早くね?なんかあったのか」と問われる。その言葉にまさかジャックのことを考えていた、なんて言えるわけもなく苦笑いをして「落ち着かなくて」と返した。


「ふーん。ま、早く来て損はねぇからな。これが終わったらすぐ出発するし、先に飛空艇の中で待ってれば?」
「ん、そうする」


 そう言ったあと、ナギは「また後でな」と言って他の飛空艇の中へと入って行った。それを見送った私は、自分の乗る飛空艇に乗り込み席に座る。もう出発の時間だと思って来てみたがどうやら少し遅れているらしい。

 しばらくの間、私は頬杖をついてぼんやりしながら外を見つめる。今から蒼龍と戦うのか、と思うのに何故か実感が湧かないでいた。きっと戦場に行ったら嫌でも実感が湧くだろう。それなのに自分の緊張感の無さに、肩を落とし項垂れる。
 これから生死をさ迷うかもしれないというのに、このままじゃダメだと自分を奮い立たせるように両頬を思いっきりつねった。


「…何してんの?」
「ぎゃ、な、ナギ!いきなり現れないでよ!」
「や、別に気配消してねぇけど」


 私は慌てて頬から手を離し、ナギを見上げる。ナギは苦笑しながら私の隣に座った。思いっきりつねったせいなのか、変なところを見られたせいなのかわからないが、頬が熱い。
 ナギは私を凝視すると、フッと鼻で笑い手を伸ばして頬に触れた。その行動にビクッと身体が反応する。


「なな、」
「頬っぺた赤いなー。よし、俺もいっちょ引っ張ってやるよ」
「え?…いっ!?」


 片方の頬をナギが思いっきりつねり始めた。自分でやるよりも加減がわからないからか、かなり痛い。おまけに変な顔もしているだろうし、もう恥ずかしいやら痛いやらでナギにやめてと懇願した。


「いったー…」
「はは、片方だけめっちゃ赤いし」
「ナギが思いっきりつねるからでしょ!」
「いやだってよ、自分がやるより誰かにやられたほうが気合い入るっしょ?」
「そ、れは…」


 確かに、と納得するもなんか腑に落ちない。そんな私にナギはニヤニヤしながら見つめてくる。その姿が妙に腹立たしく思った私はやり返しにナギの頬をつねった。


「なっ」
「やり返し!」
「いてぇって!ちょ、手加減しろよ!」


 思いっきりつねったあと、パッと手を離すとナギの頬はつねられた部分だけ赤く染まっている。不自然に赤く染まっている頬を見て、なんだか妙に可笑しくて堪えきれずに吹き出してしまった。


「あはは、ナギが赤くなってる!」
「…赤くなってんじゃねぇ、お前が赤くさせたんだろ」
「ふふっ、へ、変なの…」
「んな笑うことじゃねぇだろ…」


 こんなときなのに、笑いが収まらず周囲の人たちも私を変な目で見ているのがわかる。私もなんで自分がこんなに笑っているのかわからない。こんな状況で笑う自分は周りから見ておかしく思っているだろう。それでもなんでか笑いは収まらなかった。
 ナギはそんな私を見て、頬を擦りながら呆れたように笑った。