16
サロンを後にした私とナギはテラスへと来ていた。ナギは私の手を掴んだまま、ベンチに座る。何だかナギの顔色が悪いような、そんな気がしてナギの顔を覗きこんだ。
「どうかしたの?」 「あ、ああ、いや」
おかしい。こんな挙動不審なナギ見たことがない。ナギは下を俯いたまま、私の手を強く握った。一体ナギはどうしたというのだろうか。
「ねえ、」 「次の作戦さ、」 「?」 「また俺とだぜ」 「え」
次の作戦というのはトゴレス要塞攻略戦のことだろう。それが何、と聞いたらナギは顔を上げていつも通りの調子で嬉しいだろ、と言ってきた。
「はぁ、まさか。またナギとかぁ」 「嬉しいくせに。でも、メイが俺と一緒でよかったー」 「?なんで?」 「…次の作戦で犠牲者がたくさん出るからな」
そう言うとナギはニッと笑って、まぁメイが違う任務についてても俺が無理矢理連れてくけどな、と言った。 次の作戦でたくさんの犠牲者が出る。それは私も理解していた。 トゴレス要塞は朱雀にとっても必ず奪取したい要塞であることも、候補生部隊を含めてトゴレス要塞に投入することも、諜報部から伝えられていた。
「…犠牲者、たくさん出ちゃうんだね」 「ああ、」 「……まぁ、しょうがないっちゃあしょうがないんだけどさ」
そう、しょうがない。戦争ってこういうことだから。何かを得るためには何かを必ず犠牲にならなくてはならない。多分これは皆理解していると思う。
「メイは俺が守るから」 「え?」 「あ、いやーはははっ、それにしてもいい天気だよな!」 「う、うん…」
空を見上げてナギは言った。繋がれていた手はいつの間にか離れていた。
「そういや、今日はまだあいつとは会ってないのか?」 「あいつ?」 「あいつって誰のことー?」 「お前だよ、お前!」
いつの間に来たのだろうか。ジャックがにこにこしながら私の背中に抱き着く。あいつってこいつのことか。 ナギはジャックの後ろ襟を持ち、私からジャックを離させる。ジャックは何するんだよ、と言いたげな顔をしていた。
「メイに抱き着くなっつーの」 「いいじゃん、僕とメイの仲なんだから!ね、メイ」 「ダメです」 「ほらみろ」 「えー!」
ジャックは肩をガックリ落とし、拗ねたように眉を寄せる。ナギは勝ち誇ったような笑みをジャックに見せた。この2人の歪み合いはいい加減どうにかならないのだろうか。
「それで、ジャックはメイに何の用なんだよ」 「ナギには教えなーい!メイ、僕と散歩しよー」 「ばっかお前、今メイは俺と話してる途中だっつーの!」 「えー?じゃあ早く話してよ。話し終わったら僕と散歩ねぇ」 「お前なぁー!」 「はぁ…」
未だ睨み合っているナギとジャックに、溜め息しか出ないのだった。
* * *
アレシアは一人、朱雀クリスタルの所にいた。煙管を手に、クリスタルを見つめる。クリスタルは相変わらず輝きを放っていた。
「……まさか、あなたたちがね…」
アレシアが微笑む、その表情はなんの意味を持つのだろうか。クリスタルはそれに応えるかのように小さく光るだけだった。
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