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 サロンを後にした私とナギはテラスへと来ていた。ナギは私の手を掴んだまま、ベンチに座る。何だかナギの顔色が悪いような、そんな気がしてナギの顔を覗きこんだ。


「どうかしたの?」
「あ、ああ、いや」


 おかしい。こんな挙動不審なナギ見たことがない。ナギは下を俯いたまま、私の手を強く握った。一体ナギはどうしたというのだろうか。


「ねえ、」
「次の作戦さ、」
「?」
「また俺とだぜ」
「え」


 次の作戦というのはトゴレス要塞攻略戦のことだろう。それが何、と聞いたらナギは顔を上げていつも通りの調子で嬉しいだろ、と言ってきた。


「はぁ、まさか。またナギとかぁ」
「嬉しいくせに。でも、メイが俺と一緒でよかったー」
「?なんで?」
「…次の作戦で犠牲者がたくさん出るからな」


 そう言うとナギはニッと笑って、まぁメイが違う任務についてても俺が無理矢理連れてくけどな、と言った。
 次の作戦でたくさんの犠牲者が出る。それは私も理解していた。
 トゴレス要塞は朱雀にとっても必ず奪取したい要塞であることも、候補生部隊を含めてトゴレス要塞に投入することも、諜報部から伝えられていた。


「…犠牲者、たくさん出ちゃうんだね」
「ああ、」
「……まぁ、しょうがないっちゃあしょうがないんだけどさ」


 そう、しょうがない。戦争ってこういうことだから。何かを得るためには何かを必ず犠牲にならなくてはならない。多分これは皆理解していると思う。


「メイは俺が守るから」
「え?」
「あ、いやーはははっ、それにしてもいい天気だよな!」
「う、うん…」


 空を見上げてナギは言った。繋がれていた手はいつの間にか離れていた。


「そういや、今日はまだあいつとは会ってないのか?」
「あいつ?」
「あいつって誰のことー?」
「お前だよ、お前!」


 いつの間に来たのだろうか。ジャックがにこにこしながら私の背中に抱き着く。あいつってこいつのことか。
 ナギはジャックの後ろ襟を持ち、私からジャックを離させる。ジャックは何するんだよ、と言いたげな顔をしていた。


「メイに抱き着くなっつーの」
「いいじゃん、僕とメイの仲なんだから!ね、メイ」
「ダメです」
「ほらみろ」
「えー!」


 ジャックは肩をガックリ落とし、拗ねたように眉を寄せる。ナギは勝ち誇ったような笑みをジャックに見せた。この2人の歪み合いはいい加減どうにかならないのだろうか。


「それで、ジャックはメイに何の用なんだよ」
「ナギには教えなーい!メイ、僕と散歩しよー」
「ばっかお前、今メイは俺と話してる途中だっつーの!」
「えー?じゃあ早く話してよ。話し終わったら僕と散歩ねぇ」
「お前なぁー!」
「はぁ…」


 未だ睨み合っているナギとジャックに、溜め息しか出ないのだった。



*     *     *



 アレシアは一人、朱雀クリスタルの所にいた。煙管を手に、クリスタルを見つめる。クリスタルは相変わらず輝きを放っていた。


「……まさか、あなたたちがね…」


 アレシアが微笑む、その表情はなんの意味を持つのだろうか。クリスタルはそれに応えるかのように小さく光るだけだった。