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 やっとナギと和解できて、肩の力を落とす。二人の間の空気はまだ微妙だが、さっきよりだいぶ柔らかくなったような気がした。
 そして何か思い出したかのようにナギは机の上にプリントの束を置く。


「これ、次の作戦についてのプリント」
「なんかやけに多いね…」
「次の作戦は朱雀にとって重要な作戦だからな。何せ白虎と蒼龍が一気に朱雀を攻めてくるし、失敗したらおしまいだ」


 何枚あるのかわからない束を見て、溜め息が自然と洩れる。ナギは頬杖をつきながら、私に視線を寄越した。


「そのプリントの中には半分が作戦内容、半分が朱雀軍隊と候補生の配置図が書いてあるから」
「朱雀軍隊と候補生の配置図?」
「そう。今回諜報部は軍隊の連携を中心に活動する。もちろん、連携以外にもやるべき仕事は与えられるけどな」
「…どの飛空艇にどの部隊がいるか把握しておけってこと?」
「ご名答」


 プリントの束を両手で持ち、一枚目を捲る。
 作戦日時は嵐の月の17日。17日という文字を見て、ふとジャックの顔が頭の中を過った。17日は確かジャックの誕生日だったはず。
 先ほどジャックとのやり取りを思い返す。


「………」
「…?どした?」
「な、なんでもない!」


 思い返したのが間違いだった。
 ジャックとキスした(微妙なところだが)光景がフラッシュバックしたからだ。カァッと顔に熱が集まるのを感じながら、それを冷ますように次のページを捲った。

 作戦内容は一通り目を通した。軍隊と候補生の配置図はまた部屋に戻ってからゆっくり頭の中に叩き込むことにしよう。
私がだいたい見終わったのを見計らったナギは、はぁ、と溜め息をついた。私はナギに視線を移す。


「絶対、生きて帰ろうな」
「…もちろん」
「もし俺が死にそうになっても、お前は絶対逃げろよ」
「な、なにそれ。縁起でもないこと言わないでよね」


 そう言うとナギはフッと笑ってそうだな、と呟いた。その笑みにはいつもの余裕の表情はない。そんなナギを見て、胸が締め付けられる。
 私はふとムツキとのやり取りを思い出した。そしてナギの前に小指を立てて差し出す。


「約束」
「は?」
「絶対生きて帰ってくるって約束!ムツキとも約束したの。絶対帰ってくるって。だから、ナギも約束しよう?」
「…子供みてぇ」
「いいから、早く出して」


 そう急かすとナギは苦笑いを浮かべながら、自身の小指を私の小指に絡めた。


「絶対帰ってくるって約束」
「…おう」
「嘘ついたら呪うから」
「…おう」


 ナギはそこでクリスタルの加護のことは口には出さなかった。死んだら記憶は消える、だから呪うことなんてできないのに。それを言わないのはナギなりの優しさだろう。
 小指をほどいたあと、私たちはどちらからともなく笑い合った。