いつかの最初の出会い




 イヤな奴。第一印象は最悪だった。





「ねぇ、ちょっとそこの人ー!」
「…?」



 そこの人、そう言われ周りを見渡すが私以外に人はいない。ということは私を呼んでいるのだろう。
 ゆっくり振り返るとそこには長身で金髪で、一見チャラチャラした男の子がこちらに手を振っていた。少しだけ自分の幼馴染みに似ている。あの人懐こい笑みとか、チャラそうなところとか。
 その男の子は私が自分に気付いたのだとわかると足早に駆け寄ってきた。



「……なに?」
「あのさぁ、ここってどこ?」
「………見てわかんないの」



 辺りを見てわからないのか、この男は。
 周りは墓石がたくさん並んでいて、これを見れば一目で墓地だとわかるだろうに。そう言うと彼はきょとんとした顔をして、首を傾げた。本気でわからないらしい。



「…ここは墓地」
「ボ、チ?」
「そう、亡くなった人の遺体や遺骨が埋葬されてる場所」



 私は目の前の墓石に視線を落とした。この墓石には同じ諜報員だった女の子が眠っている。偵察中に敵に見つかり命を落としてしまった。この子が命を落としたのは私のせいだった。私のせいなのに、この子のノーウィングタグを見ても全く思い出せない。悔しくて、虚しくて、そう感じる自分を情けなく思った。



「ふーん…ねぇ、なんで墓地があるのかなぁ?」
「……え?」
「だってさクリスタルのお陰で記憶はなくなるんだから、そんな悲しい顔してたって結局思い出すことはないでしょ?墓地があるだけで悲しくなるんだったら、墓地なんて必要ないって思うんだよねぇ」
「…この子が死んだのは私のせい、なんだよ」
「それなら尚更墓地なんて必要ないじゃん。死んじゃったらもう生き返らないんだし、キミが責任を感じる必要だってないんだよー」



 確かに彼の言うことは最もだ。私がいくら悔やんだってその子が生き返ることはない。わかってる、そんなこと自分が一番わかっているのだ。だからこそ第三者からこう言われると余計に鼻につく。
 ヘラヘラ笑う彼を睨みつけながら、噛み付くように反論する。



「私はこの子がいた存在を忘れないよ」
「えー?思い出は消えるのに?」
「思い出が消えたとしても、この子がいたという存在は消えない。死んでもこの子の魂は私の中で生きてるから」
「へぇー…魂、ねぇ」
「墓地に来るのはこの子の存在を魂に刻み込むため。この子が身を持って教えてくれたことを、次失敗しないように気を引き締めるため。私のせいで死んでしまったという事実を忘れないため。だから私には墓地が必要なの」



 彼に途中で発言させないように、自分に言い聞かせるように私は言う。彼は私の意見を聞いて不思議に思うだろう。そこまでして死者に執着する私をおかしな人だと思うだろう。それでもいい、私は彼みたいな考えにはなりたくないから。



「うーん…わかんないなぁ、僕には」
「…わかんなくて結構だよ」
「変なこと考えるよねぇ、キミって。なんのためにクリスタルが死者の記憶をなくしてくれると思ってるのさ。そうやって、死んでいった人たちに自分たちが囚われないために記憶をなくすんだよぉ」
「…キミにはわかんないよ、私の気持ちなんて」
「………」



 きっと彼にはわからない。わかってもらおうなんて思わないけれど。
 深く溜め息をつき、私は歩き出した。もう彼と話すことはないだろう。彼が誰だかわからないが、次に会うことはないと確信していた。
 次の任務は敵地に乗り込む任務で、きっと無事では済まされないだろうから。





「…あんな子、いたんだ」



 1人残されたジャックは彼女の背中を見つめながらそう呟く。彼女の姿が見えなくなったあと、彼女が見つめていた墓石に視線を移した。



「死んでも、魂は自分の中に、かぁ」



 彼女が死んだら、彼女の魂はどこに行くのだろう。この子の魂は彼女の中に、じゃあ彼女の魂はどこの誰の中に行くのだろうか。そう考えて、ジャックは彼女が出ていった扉を見つめてポツリと呟いた。



「誰のとこにも行く予定なかったら、僕の中に来てほしいなぁ」



 彼女という存在を、自分の魂に刻み込むために。
 そう思いながらジャックは穏やかな風を感じながら、彼女が出ていった扉へと歩き出した。

(2012/10/06)