160.5




 任務が終わりキングに無理言ってメイに着いていくことの許可をもらい上機嫌に魔導院へメイと戻る。メイは魔導院に戻るとすぐに部屋に向かったので、自分も迷うことなく着いていく。
 部屋に入ると当たり前のように椅子に座った。そんな自分を突っ込む余裕がないのか、メイは呆れた表情で報告書を二枚取り出し机の上に置いた。

 静かな部屋に僕の筆とメイの筆の音だけが響く。報告書を書いているとメイが溜め息をついた。


「んー?どしたのー?」
「…別に、何でもない」


 そう言ってまた筆を走らせる。きっと自分のことなんだろうな、と思うと嬉しく思った。思わず鼻歌を歌う。
 報告書を書き終えたのかメイは背伸びをして頬杖をつき僕を見つめてきた。何だか照れちゃうなぁ。


「ねぇ、ジャック」
「なーにー?」
「ダイヤの原石は手に入ったの?」
「あ、トキトから聞いたぁ?」
「うん」


 そういえばそんなこともあったなぁ。結局ダイヤの原石はひとつしか見つからなくて、トキトにあげてしまったけど。メイに指輪作ってあげたかったなぁ、そんなことを思いながら筆を置き、メイを安心させるかのように笑みを作った。


「もち手に入れたよぉ」
「へぇ、すごいね」
「でしょでしょ?もっと褒めてー」
「はいはい」


 褒めて褒めてと言う僕にメイは苦笑を浮かべて、話を逸らすように早く書きなよ、と催促する。話を逸らされてちょっと落ち込んだ僕は、わざとらしく口を尖らせて流さないでよねぇ、と呟き筆を取った。
 もうすぐで報告書が書き終わる。その頃合いにメイは気付いたのか、席を立ち冷蔵庫を開けてジュースを取り出しているのがわかった。
 最後に自分の名前を書くと筆を置いて思いっきり背伸びをして声をあげた。


「終わったー!」
「お疲れさま、ジュース飲む?」
「うん!飲む飲むー!」


 メイはなんて気が利くんだ。目を輝かせてメイを見つめれば、メイは優しく微笑んでいて心臓がドクンと跳ねた。そんな僕を他所にメイは机にコップを2つ置き、そのうち1つを僕の目の前に置く。
 ありがとう、とお礼を言い落ち着きを取り戻すかのように僕はジュースを一気に飲み干した。


「っはぁー!仕事の後の一杯は最高だねぇ」
「何それ、親父くさい」
「えー、僕まだピチピチの16歳なのにぃ」


 親父くさいだなんて失礼だなぁ、そう思っているとメイがまだ16歳だったっけ、とこれまた失礼なことを言い出した。ふとカレンダーに目を移すとそこには嵐の月という文字が目に入った。嵐の月って、そういえば。


「そういえば、今月の17日で17歳になるよー!」
「今月なんだ、誕生日」
「うん!だからさぁ、なんかプレゼント、欲しいなぁ…」


 そう言ってメイをじぃっと見つめる。メイはえぇ、と困惑した様子で、これはもらえないかなぁ、と落ち込みそうになったその時だった。
 メイが考えておく、と言ってくれた。ほとんど駄目元で言ってみただけなのに。まさか考えてくれるなんて思いもしなかった僕は、へへへ、と何故か照れてしまった。


「駄目元でも言ってみるもんだねぇ」
「駄目元だったの?」
「うーん、ちょっとした賭けってやつかなぁ」
「ふーん…いらないならいいけど」
「えっ!?そんなぁ、メイからもらうものだったら何でも嬉しいよー!だから楽しみにしてるね!」


 メイからもらうものならなんでも嬉しい。もちろん嘘偽りのない言葉だ。例え石っころだろうと一生大事にする自信がある。
 もらう気満々な僕を呆れながらも、どこか楽しそうな笑みを浮かべるメイを見て、また心臓がドクンと跳ねた。
 ヤバい、今のすごい可愛い。


「………」
「……ジャック?」


 急に黙り込んだ僕を覗き込むメイに、僕は生唾を飲み込んだ。結構距離が近い。メイは気付かないのだろうか。
 僕の視線がふとメイの唇に移り、顔に熱が集中するのを感じた。
 我慢できない。そう思った僕は席を立ち、おもむろにメイに近付く。メイは僕の行動を不思議に思いながら首を傾げて見上げていた。そういう仕草もまた可愛く見えてしまう。
 両手でメイの頬を挟むと、メイは目を見開いてカァ、と顔が赤くなるのがわかった。


「メイ…」
「え、」


 名前を呼んだらメイは少し反応をする。突き飛ばされるかな、なんて思ったがメイからそんな気配は感じられない。ただただメイが欲しくて、仕方なかった。
 ここでメイが突き飛ばさなければ自分を保っていられるかわからない。けどもうここまで来たら止められなかった。
 徐々に近付くメイとの距離に、メイは限界だったのかギュッと目を瞑る。メイとの距離はもう0に近かった。