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 サイスさんと離れ、一人で数人の皇国兵と戦う。広場の端まで追い詰められるが、ブリザガを唱え終わってるので一気に巻き込むつもりだった。


「死ねぇぇえー!」
「!ブリザ」
「メイ!」


 その声に反応はできたがブリザガの魔法は抑えられず自分の回りが一瞬にして冷気に包まれる。声をあげた張本人は凍っている皇国兵の後ろで、まるで皇国兵同様凍ったみたいに固まって呆然としていた。


「ジャック!ご、ごめん、大丈夫?」
「え……あ、だだ大丈夫…この人が盾になった、みたい」


 顔を引きつらせるジャックの目の前には、キンキンに冷えて凍っている皇国兵が立っていた。それを見て肩を落としジャックに駆け寄れば、ジャックもまた力が抜けたのかハァ、と溜め息をもらした。


「本当、びっくりしたよー…」
「私は大丈夫だって言ったじゃない」
「それでも、皇国兵に囲まれてるの見たら焦るでしょー」


 暢気なことを言いながら自分の背後にいる皇国兵に向かって刀を突きつける。皇国兵に突きつけた刀は身体を貫き、力なく倒れていくのを見ながらジャックにケアルをかけた。


「そうそう、メイって結構やるよねぇ」
「何それ、今更?」
「んー、今更じゃないけどさぁ、何て言うか、少し寂しいなぁなんて」
「え?」


──ドンッ

 ウォーリアの爆発音でジャックとの会話が最後だけ聞こえなかった。ジャックに聞き返すと、ジャックは首を横に振って何でもない、と笑った。何を言ったか気になるが今はそれどころじゃない。
 ジャックと背中合わせになり、お互いの温もりを感じながら気合いを入れるようにジャックが声をあげた。


「よーし、あともう少し頑張るぞー!メイにこの背中、預けたからねぇ!」
「えっ!?そんな急に言われても」
「メイも僕に背中を預けてね!」
「え?!」
「大丈夫!絶対絶対ぜーったい守ってみせるから!」


 ジャックのその頼もしい言葉に、胸の奥が暖かくなる。自然と浮かんでくる笑みを噛み締めながら、皇国兵に向かって小刀を突きつけた。





 どれくらい経っただろうか。最後のコロッサスを倒すと、辺りはようやく静寂が訪れた。
 肩で息をする者や、地べたに座り安堵の表情を浮かべる者もいた。ちなみに私は前者だ。
 機械が壊れた臭いと人の血の臭いと混ざって、何とも言えない空気が辺りを包む。


「やーっと終わったねぇ」
「…ん、そうだね」


 機械の残骸と血まみれの地面を見て眉をひそめる。
 皇国軍は全滅した。たった一人の大佐のために。
 そう考えるとあの大佐がどれだけ部下に慕われていたかよくわかる。


「たった一人逃がすために全滅ねぇ。よくわかんないわ」
「有象無象の自分たちより隊長の方が戦力になるかと思ったんじゃねぇの?」
「それもあるんだろうがな。あの男、今日より強くなるぞ……」


 そんな会話を聞きながら、私は心の中で敵である皇国兵たちに向かって冥福を祈った。