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 クラサメ隊長に言われ、候補生部隊より先にトグアの様子を見に行く。トグアの町に着くとそこで捕らわれていたであろう皇国兵が、慌ただしく動き回っていた。トグアの住民はそこには居らず、先に避難をしたらしい。


「フェイス大佐はあの人かな…」


 魔導アーマーの近くで皇国兵に指示する人物を見てフェイス大佐だと確信する。それを遠くから見つめていると、COMMに連絡が入った。


「はい、こちらメイ…」
『メイー!今から行くからねー!無理しちゃだめだからねー!』
「………」


 通信先はジャックだった。ジャックの声を聞いて肩を落とし溜め息をつく。どうしていつも私の任務にはジャックが必ずいるのだろうか。


『メイ?大丈夫!?まさか、敵に殺られたんじゃ』
「私は大丈夫だから。ジャック以外に誰がいるの?」
『僕以外?えーっと、キングとエイトとサイスとケイトとデュースだよー!』
「そう、わかった。また着いたら連絡くれる?」
『りょーかい!すぐメイのところに行くからねぇ』


 語尾にハートが付きそうな感じで喋るジャックに私はこめかみを押さえる。きっと他の子たちも呆れているに違いない。呆れている姿も想像できた。
 とりあえず0組が来るまでは監視しながら待機して、到着したら皆を通じて指示を出していこう。
 私は食い入るように皇国軍を見つめた。


──ピピッ

「!」


 皇国兵のほとんどが撤退していく姿を見つめながらCOMMへ神経を集中させる。はい、と返事をするとメイか?と先ほどよりもだいぶ落ち着いた声が耳に届いた。


「…エイト?」
『ああ。今トグアの町に到着した、そっちはどんな様子だ?』
「こっちはもうほとんどの皇国兵が撤退してる。でもまだ、フェイス大佐が撤退する気配はないよ」
『そうか…とりあえず今から0組は任務を開始する』
「了解、また何か動きがあったら連絡する」


 そう言うと通信が切れる。
 再び皇国軍のほうへ視線を移すと、1人の皇国兵がフェイス大佐に近付き耳打ちをしていた。それを見つめていると、フェイス大佐は慌てて魔導アーマーに乗り込み発進させる。


「…気付かれたか」


 すぐさまCOMMでエイトに知らせると、エイトはわかった、と言いCOMMを切った。私も慌ててフェイス大佐を追っていくと、フェイス大佐はトグアの町の広場に降り立った。


「さすが朱の魔人。私の予想よりはるかに早いですね」


 朱の魔人、ということは今広場で0組とフェイス大佐が対峙しているのだろう。息を潜めながらその光景を盗み見る。


「残念ながら、ここには私しかいません。ここにいた者たちは撤収を命じましたので。しかし、少し早いのですよ。部下が撤収するには今少し時間が必要です。だからね、魔人。私はここで足止めをしなくてはならない!!」


 そう言うとフェイス大佐は0組に向かって攻撃をしかけた。交戦に入ったことを本部に伝えながら、その光景を遠くから見つめる。私の今日の任務はフェイス大佐の動向を速やかに0組に伝えること、所謂通信兵役だ。勝手に出ていくことはできない。例え0組が危険に曝されようとも助けには行けないのだ。
 そう自分に言い聞かせ、0組の無事を祈りながら0組とフェイス大佐の交戦を見つめるのだった。