155.5




「テレポストーンあるなら先に教えてくれたってよかったじゃんかぁ!」
「わりぃ、忘れてた」
「嘘つけー!絶対わざとだー!」


 ベスネル鍾乳洞の入口でナギとジャックは言い争いながらメロエの町へ歩を進めていた。ぶつぶつ文句を言うジャックの手の中には、光り輝くダイヤの原石が握られている。
 無事にダイヤの原石を手に入れた二人は、キングベヒーモスとまともに殺りあえるわけもなく、ナギの持っていたテレポストーンで洞窟を抜けたのだった。それを事前に教えてもらわなかったジャックはいきなりワープしたことにびっくりして、お尻を派手にぶつけていた。だから文句を溢しているのだ。
 ジャックの文句を聞き流しながら歩いているとジャックは黙り込み、静かになったと思ったら大きな溜め息をついていた。


「?どうしたんだよ」
「え?あー…ダイヤの原石って本当にひとつしかないんだよねぇ?」
「俺が調べた限りではな」
「ちぇ、じゃあメイにあげれないなぁ」


 口を尖らせて不貞腐れるジャックにナギは苦笑を浮かべる。
 本当はベスネル鍾乳洞でダイヤの原石は1つしかない。この原石を求めてベヒーモスの巣に入った人間は数えきれないほどいて、今まで生きて帰ってきた人はいないと言われていた。
 ダイヤの原石が1つしか手に入らない、とジャックに言えばまた文句を言われるので黙っておくことにする。今でさえ面倒なのにこれ以上面倒なことにはなりたくないからだ。

 メロエの町に着くと太陽はもう上がりきっていて、メロエの町の人々は活発に動き回っていた。
 ナギはジャックに振り返り手を差し伸べる。それをジャックはきょとんとした顔で見つめた。


「ダイヤの原石届けっから」
「あ、あぁ、そういうことねぇ」


 あはは、と笑いながらジャックはナギの手にダイヤの原石を乗せる。そんなジャックにナギは全く、と肩をすくめダイヤの原石を手にすると踵を返しメロエの町を出ようとした。


「あっ、ちょーっと待った」
「はぁ?何だよ」


 メロエの町を出ようとするナギをジャックは慌てて引き止める。眉間にシワを寄せて振り返るナギに、ジャックは挑発するようにフッと鼻で笑った。


「あのさぁ、僕が言うのもなんだけどー」
「…何」
「あははー別にさぁ、僕からしたらナギとメイが離れてくれるのはとっても嬉しいんだけどねぇ」
「………」


 焦らすように言うジャックにナギは眉間がピクリと動く。何が言いたい、さっさと言えよ、そう呟くとジャックは少しだけ切なそうな表情をして口を開いた。


「メイにとってナギは大事なんだなぁって僕でもわかるんだよねー」
「………」
「レムとマキナ見てたら、メイとナギ見てるみたいであんまり良い気はしないんだけど…やっぱ幼馴染みだからかなぁ」
「……で?」
「ナギも、本当はわかってるんでしょ?…ナギがいなかったら今のメイはいないって思うんだ」
「………」
「悔しいけどさ、メイにはナギが必要なんだよ」


 そう言ってジャックは顔を伏せる。ナギからはその表情は見えないが、本当に悔しそうな表情をしているのだろうと容易に想像できた。
 ジャックが拳を握っているのを見たナギは、ふぅ、と一息つき再び外界へと足を向けた。


「…ナギ」
「わかったよ、ちゃんと仲直りすっから」
「……今度またメイを泣かしたら許さないからなー!」
「はいはい。煮るなり焼くなり好きにどうぞ」


 歩きながら片手を上げるナギに、ジャックは安堵の息を吐く。自分もメイと幼馴染みだったらなぁ、なんて思いながら、メロエの町で待機しているであろう0組の元へ走った。

 魔導院に向かってチョコボを走らせながら、ナギはポツリと呟く。


「…俺からしたらジャックが羨ましいぜ」


 悔しいからジャックには言わないけど、と思いながらポケットの中にあるダイヤの原石を力強く握るのだった。