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 次の作戦まではだいぶ日にちが開く。それまで各々は自分を鍛えたり、町の瓦礫の撤去など作戦までの時間を有意義に過ごすよう伝えられた。
 そんな中、私はリフレッシュルームでコハルとお茶を飲んでいた。案外、私って知り合いが多いかもしれない。と、最近気付き始めた。それでも知り合いと言うだけで親しい仲ではないのだけど。


「メイ…最近どうだ?」
「うん、まぁぼちぼち。コハルは相変わらずそうだね」
「まぁな…」


 コハルはクラスメイトが少しでも戦場に行かなくてすむように、必ず出撃命令に立候補している。怖くないはずないのに、コハルはそんな素振りを見せない。戦闘マニアなんて、冗談でもそんなことを言うものではないのに。


「メイも、大変だな」
「?なんで?」
「嫌な任務ばかりやらされているじゃないか」
「…んー、まぁしょうがないよ、この組に入っちゃったし。コハルこそ、いつも偉いね」
「……何がだ?」
「あんまり無理しちゃ駄目だよ」
「…メイには敵わないな」


 小さく笑うコハルに私もつられて笑う。
 コハルは私が所属している組の秘密を知る一人でもある。だから気兼ねなく話せたりできる間柄だ。こんな良い子が他人からは戦闘マニアだなんて言われて、でもそんなこと言われてても自分を見失わないのだから本当に偉いと思う。


「メイは…」
「ん?」
「メイは、候補生の実戦投入について、どう思う?」
「………」
「候補生は戦争の道具ではないはずだ。オリエンスに平和と救済をもたらすアギトになるための訓練であって、戦争の兵器ではない」
「…うん」
「オリエンスは朱雀だけじゃない。白虎も、玄武も、蒼龍も含まれる。そうだろ?」
「そうだね」
「偉大なエリート候補生も、魔導アーマーと同じだって言うのか……」
「………」
「…愚痴をこぼして悪いな。気持ちを切り替えるために、どうしても誰かに聞いてほしかったんだ」
「私で良かったら、いつでも聞くよ」
「ふっ、ありがとう…少し女々しかったか?」
「いや、そんなことない。私も、コハルの考えに共感できるから」


 言い終わったコハルの顔は、迷いが消えたような、そんな表情だった。朱雀の民のために、命を懸ける。それが候補生に与えられた義務だとコハルは言うけれど、私は少しモヤモヤしていた。
 候補生は皆若い。20歳を超えると魔力が衰えてしまうのだから、若いのは当たり前だけれど。でも、これからの時代生きていかなきゃいけない若い候補生が、朱雀のために呆気なく死んでいく。そんな怖い世の中で果たして良いのだろうか。死なないように頑張って生き抜くしかない、と言うかもしれないがそんな世の中、くそくらえだと私は思うのだった。


 そのあとコハルは用がある、と言ってリフレッシュルームから出ていき、私はそのまま居座った。今日はまだジャック見てないな、と思いながらマスターにサンドイッチを頼む。マスターは今日はあの子と一緒じゃないのか、と目で訴えてきたが無視をした。


「私もここ、いいか?」
「?、え、あ、どうぞ」


 隣を見ると大人っぽい銀髪の子が声をかけてきた。ありがとう、と言って座る銀髪の子にどこの組の人だろうと首を傾げた。


「………」
「………」


 なんか気まずい。そう思いながらマスターからサンドイッチをもらうとひとつ手に取り口へ運ぶ。


「……ジャックがいつも世話になってるな」
「っ!ごほっ!」


 突然何を言い出すのかと思ったら、ジャックの名前。そして世話になってる、と労いの言葉を頂きむせてしまった。慌ててお茶を手に取り口の中に流し込む。


「〜〜っはぁ…」
「す、すまない。大丈夫か?」
「あ、はい、大丈夫…」


 何とか落ち着こうと深呼吸を繰り返す。ジャックを知っているということは紛れもなく0組なのだろう。そういえば確かに任務中のときこの子とよく似た子がいた気がする。よく似たっていうかご本人様だ。


「…ジャックを知ってるってことは0組?」
「ああ、私はセブン。あなたのことはジャックから聞いてる」
「あは、は…そう…」


 つまり自己紹介をしなくともわかっているということ。よくよく見たらこの子、マクタイの時に私の気配に気付いた一人ではないか。あの気配が私だとはわからないと思うが少し気を付けないと。


「…で、セブンさんは私に何か用でも?」
「セブンでいい。私はただメイさんがどんな人なのか気になってな。突然話しかけたりして悪かった」
「いやいや気にしないで…あ、私のことも呼び捨てで構わないよ」
「そうか」


 そう言うと微笑むセブン。綺麗な人だな、と思った。それにきっと面倒見もいいのだろう。そんな人情がセブンから滲み出ている。
 セブンはマスターにコーヒーを頼む。私はふたつめのサンドイッチを手に取った。


「何故だろうな」
「ん?」
「初対面な筈なのに、初対面な気がしない」
「!……」
「不思議だな」


 マスターからコーヒーをもらい口にするセブン。確かに私からしたら初対面ではない。マクタイ奪還作戦や、レコンキスタ作戦のとき私は0組を監視していたのだから。
 私はそうなんだ、と当たり障りのない返事をする。


「……ジャックの言っていたことがわかる気がするな」
「え…ジャックが何か言ってたの?」
「いや、こちらの話だ」


 意味深な笑みを浮かべるセブンに、一体ジャックは私の何を話したのだろうか、と気になって仕方なかった。それからさりげなくセブンから聞き出そうとするも、ことごとくかわすセブンに私は頭を抱える。そんな私を見てセブンは微笑を浮かべた。