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 早朝。まだ日が昇ってから間もない時間帯にナギはある部屋を訪れていた。ドアノブに手をかけて扉を開ける部屋に入ると、スヤスヤ眠るジャックとトレイとキングが目に入った。
 三人部屋かよ、と呟きジャックを静かに起こそうとする。まずは肩を揺さぶって起こしてみるが、ジャックは眉間に皺を寄せてナギに背を向けるように寝返りをうつと、何故か幸せそうな顔をしてメイと呟いた。
 メイの名前を気安く呟くんじゃねぇ、そう思ったナギはサンダーを唱えてジャックの身体に電流を流した。


「いたたたっ!?」
「?!どうした!」


 突然痛みが全身に渡ったジャックは慌てて飛び起きる。ジャックの声に反応したキングとトレイも飛び起きてジャックを凝視した。どうやらナギはもう部屋にはいないらしい。
 自分を抱き締めて何が何だかわかっていないジャックを、トレイが静かに問い掛けた。


「ジャック、どうかしたんですか?」
「え、な、なんかいきなりビリビリーって…」
「ビリビリ?」


 そこまで話してジャックはハッと我に返る。
 そういえば昨日ナギに起こしに行くからって言われてたっけ。
 ジャックの意味がわからない言葉にキングとトレイは顔を見合わせて首を傾げる。そんな二人にジャックは慌ててへらりと笑って口を開いた。


「ぼ、僕の気のせいみたい!ごめんね、起こしちゃってさぁ…」
「本当に大丈夫なのか?」
「平気平気!はぁーなんか僕目が覚めちゃったなぁ、あはは、慣れないところに泊まるもんじゃないねぇ!」


 心配そうに見つめるトレイと、怪訝な顔をして見つめるキングにジャックはベッドから降りて伸びをする。そして椅子にかけてある上着とスカーフを取ると部屋を出ようと扉に向かった。それをキングが呼び止める。


「おい、どこに行く気だ」
「んーちょっと散歩ー!大丈夫大丈夫、また戻ってくるから」
「そうですか…なら気を付けてくださいね」
「………」
「はいはーい、じゃあ行ってきまーす」


 そう言うとジャックは片手を上げて部屋を後にした。
 トレイは欠伸を噛み締めて布団のなかへと再び潜り込む。キングはキングで顎に手を当てて何か考え事をしていた。それを見兼ねたトレイがキングにどうかしたんですかと問い掛ける。


「…いや、別に」


 キングはそう呟くと窓へ視線を移し少しだけ明るくなっている空を見つめた。





 部屋を出たジャックは宿屋を出てメロエの町の出入り口へ歩を進める。出入り口が見えてくるとナギが町の建物の壁にもたれて俯いている姿が目に入った。
 砂を蹴る音に気付いたナギが顔を上げてジャックのほうに目をやる。


「おせーよ」
「ごめんごめーん」


 一応謝りはするが全く反省の色が見られない。
 ナギは溜め息をつくとメロエの町から外界へと足を向けた。ジャックは慌てて追い掛ける。


「全くさー、もっと優しく起こしてくんないかなぁ」
「揺さぶったけど起きなかったっつーの」
「せーっかくメイの夢見てたのにぃ」
「…………」
「うわわ!?きゅ、急にサンダー向けないでよー!危ないなぁ」
「わりぃわりぃ。つい手元が狂っちまった」


 バチバチ、とナギの手の中で稲妻が走っている。それを見たジャックは背筋が凍りつき、ここは大人しくしてナギの後ろを黙って着いていくことにした。

 メロエの町を出てたった数分で目的地だと思われる洞窟に着いた。大きな鍾乳洞にジャックはほぇー、と暢気な声をあげる。


「この中にあるのー?」
「あぁ」
「ふーん」


 そう言うとナギは鍾乳洞の中へ入っていく。ジャックもナギの後ろを着いていった。
 鍾乳洞の中は外よりも気温が低く肌寒い。入り口にはモンスターがいないらしく入り口にはナギとジャックの足音が響くだけだった。


「ベヒーモスはこの先からいるからな」
「はいはーい」
「戦わずに素通りすっから、俺に着いてこいよ」
「へ?戦わないの?」
「ばか、ベヒーモスを甘く見んじゃねぇよ」


 ナギはそう言うと屈伸をしたり足を伸ばしたり、と準備運動をしている。反対にジャックはナギの準備運動をボーッと見つめるだけだった。


「っし、行くぜー」
「了解ー」


 そう言うとナギとジャックは洞窟の奥へと走り出した。