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 土の月(7月)28日

 皇国との国境である、メロエ地方に【メロエ】という拠点を手に入れた朱雀軍は、開戦時の国境である、ビッグブリッジ東岸までを支配下に置くべく、軍を前進させた。
 作戦目標は、国境を一望できる、リナウン丘陸の確保であるが、ここには既に、皇国軍のリナウン基地が建設されており、丘陸の確保のためには、ビッグブリッジ東岸の皇国軍の拠点を一掃する必要があった。

 開始された朱雀軍の攻勢に対し、皇国軍の反撃は少なかった。
 既に皇国軍は、国境に部隊を集結しており、蒼龍軍の前進に合わせて進撃の準備を整えており、ビッグブリッジ東岸の皇国軍は、朱雀軍の前進を遅らせるための捨石とされていたのである。

 このような状況のため、朱雀軍は、損害を重ねながらもリナウン丘陸の確保に成功、他の皇国拠点も順次陥落させてゆき、遂に開戦時の国境を取り戻したのであった。





 メロエ地方奪還作戦が成功した0組は、メロエの町で一時の休息をとることになった。部屋で休息をとる人も居れば、町の中を歩いたりする人もいた。
 そんな中、ジャックだけが落ち着かない様子でメロエの町の入り口をウロウロ歩き回っていた。


「どうかしたのか、ジャック」
「へ?あ、ううん、何にもないよぉー」


 キングに問い掛けられるがジャックは何にもない、とへらへら笑いながら首を横に振る。そんなジャックにキングは首を傾げ、見兼ねたクイーンがジャックに話し掛ける。


「何かあるのですか?」
「えっ、な、何にもないってばー!」
「では何故この場所でウロウロしているのですか」
「んーなんか落ち着かなくってさぁ…そ、それじゃあ僕町でも回って来ようかなぁ、うん、そうしよう!」
「あ、待ちなさい!ジャック!」


 クイーンの制止を聞かずジャックは町の中へと消えて行く。あの様子にクイーンは何かある、と勘づいたようだがジャックを捕まえることはできなかった。
 はぁ、と溜め息をつくクイーンにキングはジャックの後ろ姿を見つめるのだった。

 一方ナギは要塞に皇国の残党がいないかの確認し終え、メロエの町に向かっていた。身体の疲労感に、早くベッドで寝てぇなぁ、そんなことを思いながら足早にメロエへ向かう。
 モンスターとの交戦を避けながらやっとメロエの町に着くと、もう日は落ちていた。


「あーやっと着いた、と」


 メロエの町に入るとほとんど人影はなく、静まり返っていた。ま、当然だな、と呟き歩き出すと町の角から人らしき影がちらついたのをナギは見逃さなかった。


「誰だ」
「…さすがだねぇ」
「……お前か」


 灯りの下に現れたのはジャックでナギは肩を落とし溜め息をつく。こんな時間にどうしたんだよ、と頭をかきながら言うとジャックはニヤリと笑い口を開いた。


「ねぇ、今から行かない?」
「こっのアホ!」


 思いっきり拳を振りかざし頭をぶん殴る。余程痛かったのかジャックは殴られた箇所を両手で押さえ踞った。


「痛〜っ…」
「俺はたった今任務が終わったとこなんだよ!魔力ももうそれほどねぇし、体力も限界だっつの!」


 怒鳴るように言うとジャックは少し顔を上げてナギを見上げた。ジャックを睨みつけると少し涙目になっていて口も尖らせていた。


「そういうことだから、俺寝るわ。明日、起こしに行ってやるから俺が来る前に起きとけよ!」


 ビシッと指を差すとナギは軽快な足取りで宿屋を目指した。ナギの後ろ姿を見送ったジャックはゆっくり立ち上がり片手で痛む部分を押さえながら、ナギの後を追うように宿屋へ歩を進めるのだった。