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 ジャックは街の端に座り、ナギは壁にもたれてこれからのことを話し合う。
 ナギが言うには、そのダイヤの原石がある洞窟はモンスターの巣窟で、しかもその洞窟はベヒーモスの巣らしくそう簡単に手に入らないし出られない。1人で行くなんて死にに行くのと同じだ、と断言するナギにジャックはいかにも嫌そうな顔をする。


「もし1人で行ったとして傷でも負ってみろ、必ず死ぬからな」
「…わかったよー、1人では行きませんー」
「はぁ、本当にわかってんのかね…」


 ナギは呆れたように溜め息をつく。その溜め息を聞きながらジャックは目の前に転がっている小石を拾いガリガリと地面を削り始めた。何がしたいんだこいつ、そう思いながらもナギは続ける。


「俺が居れば傷を負ったとしても男1人くらいは担げるし援護だってできるしな」
「えー、僕ナギを担ぐの嫌だなぁ…」
「俺が傷を負う側かよ!」


 そう突っ込むとジャックはきょとんとした顔をしてナギを見上げる。本気でそう思ってやがるのか、とナギは顔を引きつらせ殴りたい衝動に駆られた。


「……まぁ、俺も野郎なんか担ぎたくねぇし、お互い様だ。怪我しないようにするんだな」
「ナギもねぇ」
「(いちいちムカつく奴だなこのやろう…)……あーっと、あぁそれでだな」


 殴りたい衝動を抑えるためにナギは拳に力を入れる。
 話したいことはまだあった。それはいつ出発するかということ。とりあえずメロエ地方奪還作戦が行われるのは28日に決まっていて、行くならそれ以降でないといけない。
 そう言うとジャックは、うーん、と唸りじゃあメロエ地方奪還作戦が終わったらすぐ行こう、と言い出した。


「はぁ?お前それマジで言ってんの?」
「僕はいつでも大マジだよぉ」
「この前の作戦と同じで要塞を占拠しなきゃいけないんだぜ?身体がもたねぇだろ」
「…じゃー次の日、それならいいでしょ?」


 次の日ってどんだけ早く行きたいんだよこいつは。
 そう思ったが口には出さなかった。ジャックの真っ直ぐな瞳に言葉が出ず、かわりに溜め息をひとつつく。最近溜め息ばっかりつくな、と苦笑いを浮かべ仕方ねぇなと呟いた。


「奪還作戦が終わったらメロエの町に来い。そこで1日休んで出発すっから」
「りょおかぁい」


 ジャックの気の抜けた返事にナギは肩を落とす。当日が心配だ、そう思いながら壁にもたれるのをやめて両手を思いっきり上に上げ伸びをした。
 それを横目に未だジャックは小石で地面をガリガリと削っている。そんなジャックのCOMMに誰かから連絡がきた。


「はーい、もしもーし?」
『ジャック?今どこにいるんだ?』
「エースだー、どしたのー?」
『…お前、課題忘れてるぞ』
「……あ」


 その一言にジャックはサァと顔を青ざめる。そして小石を置き慌てて立ち上がった。その様子にナギは首を傾げる。


「任務か?」
「違、…そ、そう任務!じゃ、僕行くねぇ!」
「お、おう…メロエの町で待ってるからなー」


 そう言うナギにジャックは返事もせず一目散に走り出した。その後ろ姿を見送り、一息ついたあとナギも魔導院へ戻ろうとするが、ふとジャックが地面に何か削っていたのを思い出し視線を地面へ移す。


「……あんにゃろ」


 ジャックがガリガリと削っていた部分には、少し汚い字ではあるがメイの名前が彫られてあった。それを見たナギは本日何回目かわからない溜め息をつき、魔導院に向かって走り出した。