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 セツナ卿が行ったあと残された私は呆然としていた。セツナ卿の言葉が頭の中で何度も何度も再生される。


『クリスタルが生まれし時から我らは主を見守り続けていた…刻が来るその時まで』
『我らは如何なる時も主の力となろう。主次第でこの定めを光へと導かん。それが…クリスタルの言の葉』


 私自身何が何だかわからずただただセツナ卿の言葉だけが頭の中でループする。言っていること自体は難しくない。セツナ卿の言葉の意味は理解できる。
 だけどセツナ卿の言っている意味を、そのまま受け止められるかと言えば嘘になる。私は私なのに、何故か怖くて仕方なかった。


「何、それ…」


 私は両腕で自身を抱き締める。
 自分がわからない。私は一体何者なのだろう。


「メイさん…?」
「!」


 後ろから話し掛けられ思いっきり身体が跳ねる。ゆっくり振り返るとそこには心配そうな顔をするレムさんがいた。その顔を見てさっきまでの緊張感がふっと和らぐ。


「レム、さん…」
「メイさん、すごい顔色悪いよ?大丈夫?」
「あ、だ、大丈夫…」


 レムさんは眉を八の字にさせて私を覗き込む。心配させまいと笑おうとするが、上手く笑えているのかもわからなかった。
 未だ心配そうな表情のレムさんに私は話題を逸らそうと口を開いた。


「れ、レムさん、さっきセツナ卿と居たけど…何かあったの?」
「え?あ、うーん…何かあったと言えばそうかもしれないんだけど…」


 上手く話を逸らすことができたらしい。
 顎に手を当てるレムさんに私は首を傾げる。少し考えたあと、レムさんはおもむろに口を開いた。


「セツナ卿が言った言葉がね、どういう意味かわからないんだ」
「セツナ卿に何か言われたの?」
「うん…でもきっとたいしたことじゃないよ」
「…そっか」


 レムさんもセツナ卿に何かを言われたようだが、気にしないようだ。正直何を言われたのか気になったがこれ以上追求するのも気が引けてしまったのでそこで終わらせる。
 未だ暗い顔の私をレムさんは気遣って、ドクターに診てもらおう?と言ってくれた。その気遣いに申し訳なくなった私は首を横に振って部屋に戻って休むよ、と言いすぐ踵を返して正面ゲートを後にした。





「メイさん…大丈夫かなぁ」


 そう呟きメイの背中を見送ったレムは先ほど話をしたセツナ卿との会話を思い返す。


『その刻をこれに迎えるかは汝次第。否、人の身には詮無き定めか…。主の思いが、汝らに届くことを祈ろう』


 セツナ卿のその言葉にレムは首を傾げて、顎に手を当てる。この言葉を言われるその前にもよくわからないことを言っていたが、最後の"主の思いが、汝らに届くことを祈ろう"と言った言葉が引っ掛かった。
 主とはクリスタルのことか、はたまた別のモノを指すのか。


「…気にしないほうがいい、よね」


 独り言のように呟くレムはメイに続き、正面ゲートを後にするのだった。