146




 テラスを出たあと次に向かったのは噴水広場だった。潤っている目を袖で擦り、ハァ、溜め息を吐く。


『ルシの支援でもさせるさ』


 この間の軍令部での軍令部長の放ったこの言葉に、私は拳を握る。クラサメ隊長はもう覚悟をしているかもしれない。でもやっぱり0組にはクラサメ隊長が必要だ。どうにかしてルシの支援から外させることはできないだろうか。


「メイちゃん?」
「!あ、トキトさん…」


 そんなことを考えていたらトキトさんに話し掛けられた。トキトさんは何かあったの、と首を傾げる。


「いや、ちょっと考え事を…」
「考え事?」
「気にしないでください。…それよりトキトさん、ナギ見掛けませんでした?」


 追求される前に慌てて話題を逸らす。トキトさんは私の問いに、あぁ、と何か知っているのか小さく声をあげた。でもどこか浮かない顔をしている。
 そんなトキトさんをジッと待っていたら、気まずそうに頬をかいて口を開いた。


「見掛けたには…見掛けたけど…」
「今どこにいるかわかりますか?」
「あ、ごめん、どこにいるかまではわからないんだ」
「そう…ですか…」


 肩を落とす私にトキトさんは慌てたようにナギに何か用だったのか聞いてきた。


「私じゃなくてカスミ武官がナギに用があるらしくて…」
「カスミ武官が?COMMには出ないのかい?」
「はい…何度か呼び掛けたんですが繋がらなくて」


 そう言うとトキトさんはサァと顔を青くさせた。トキトさんの様子からみて、何か知っているのだと確信する。
 私はトキトさんに、何か知っていますよね?と問い掛ければトキトさんは恐る恐る口を開いた。


「…ダイヤの原石を探しに行ったよ」
「え?ダイヤの原石?」


 ダイヤの原石なんて何に使うのだろう。というかダイヤの原石なんてそうそう見つからない代物なのに、何があってそんな物を探しに行ったのか。
 首を傾げる私にトキトさんはその理由を喋り始めた。


「俺が頼んだんだ…エミナさんに贈りたくて…」
「え…トキトさんが?……ダイヤの原石を贈るんですか?」
「えっ、あ、違う違う。ダイヤの原石で指輪作ってそれを贈ろうと思って」


 自分もダイヤの原石を探してみたんだがなかなか見つからず、探す時間もなくなってきたのでナギに頼んだのだとトキトさんは言う。
 なるほど、ナギならダイヤの原石がある場所を知っているかもしれない。そういう私もどこかの書物でダイヤの原石があると言われている洞窟を見たことがあるが、どこの洞窟だったっけ、と頭を捻る。


「メイちゃん…?」
「うーん…ダイヤの原石がある場所を本で見たことがあるんですけど…」
「え、本当に?!」
「あ、でもどこの洞窟だったかは思い出せなくて…」


 オリエンスにある洞窟を全部巡る時間は今はない。私がそう言うとトキトさんまで肩を落とし、無理なこと頼んじゃったかな、と呟く。そんなトキトさんに私は元気付けるように声をかけた。


「大丈夫ですよ。ナギなら絶対帰って来ますし、ダイヤの原石も手に入れてきますから」
「……うん、そうだね…それに0組のジャックもついてるんだ、大丈夫だよな」
「……え?」


 トキトさんのその言葉に一息遅れて反応する。そんな私にトキトさんが説明を施すように口を開いた。


「ナギを見掛けたときちょうどジャックもいたんだ。ジャックはあんまり気乗りしなかったけど、ナギの挑発に乗っちゃってね」
「…そう、ですか」


 あの二人で大丈夫なのだろうか。決して仲が良いとは言い切れないから少し、いやかなり心配だ。確かにナギが1人でいくよりか誰かがいたほうが安心だが、よりによってジャックだなんて。
 言葉をなくす私に、今度はトキトさんが私を励ましてくれるのだった。