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トレイから逃げるようにサロンを出た私は全くどこにいるのだろう、と頭を捻る。サロンの次に思い付いたのがテラスだった。でもナギがテラスにいるという確率はほぼないに等しい。それでも覗くくらいはしておこうと、魔法陣でテラスへ飛んだ。
「オイ、本当なのか!?」 「!」
テラスに着くと一番に聞こえてきたのはナインの声だった。私は驚いてテラスに目線を移す。するとそこにはクラサメ隊長と対峙しているナインとケイトの姿があった。出直そうかと思ったが諜報員の性か足は止まったままだ。
「次のミッションの出撃って俺らのせいだって聞いたぞコラァ!」
ナインの声は相変わらず大きくて、魔法陣のほうまで聞こえてくる。他の候補生もいるのに、そんなことをこんなところで喋っても大丈夫なのだろうか。 そう考えながらついついクラサメ隊長たちの死角となる壁にもたれかけ、聞き耳をたてる。
「それが指揮隊長に話す時の言葉遣いか?まったくお前も子どものままだな」
話を逸らそうとしているのが私でもわかる。それはケイトにもわかったようで、クラサメ隊長を睨み付けながら口を開いた。
「話を逸らすつもり?」 「……お前たちのせいなどではない。全ての結果は自己の責任だ」
そんなことない。全部が全部クラサメ隊長の責任ではないのに。そう言いたかったが、ここで出ていくわけにはいかずグッと堪える。
「んな話は、どうでもいいんだよ!ってかそもそも大規模ミッションにフル参戦なんて身体持つのかよコラァ!?」
そう言うナインに私は自然と頬が緩む。ナインのその発言は裏を返せばクラサメ隊長の身体を心配しているのだと、ナインは気付いているだろうか。あのナインのことだ、きっと気付いてはいないだろう。
「まだ魔力は残っているが身体は正直だ、昔のようには動けん。十全とは言い難いだろうな」 「………」
正直に言うクラサメ隊長にケイトは目を丸くさせ組んでいた腕をおろす。
「とうの昔に氷剣の死神は死んだ。だが、まだできることもある」 「アァン?ルシの支援なら大丈夫ってことか?」
そう言うナインにクラサメ隊長は呆れたように溜め息をついた。
「戦場に身を置くものとは思えない台詞だな。戦争に【大丈夫】などという言葉はない。わかっているだろう?」 「関係ねぇよ、んなこと」
ナインはそう言うとクラサメ隊長から顔を背け、腕を組む。ナインのその様子にクラサメ隊長はフッと笑みを浮かべた。
「私に死なれると困るのか?」 「あぁ、困るね!」
クラサメ隊長の問いに答えたのはケイトだった。
「あんたのことは好きじゃないけど、腐っても隊長だ!部隊長が死んだなんて格好悪いっての」
ケイトはそう言うが真意はどうなんだろう、とその光景を盗み見ていたらケイトの次の言葉に思わずフッと笑ってしまった。
「アタシらのせいで死なれたら寝覚めが悪いし」
そう言うケイトは腕を組み目を伏せる。ケイトも少なからずクラサメ隊長のことを心配しているようだった。
「大丈夫さ。私が死んだら、クリスタルが忘れさせてくれる」 「忘れらんねぇな、きっと!…だって、お前は0組の隊長なんだぞ」
クラサメ隊長の言葉にナインがすかさずそう返し、そしてクラサメ隊長に指をさす。ナインのその言葉に思わず口元を手で押さえる。クリスタルが忘れさせてくれると言っても、クラサメ隊長がいなくなるということが想像できないのだろう。 ナインの思いがけない言葉にクラサメ隊長は優しい声で、そうか、と首を縦に振った。
「なら、君らが私のことを覚えていてくれることを祈ろう。口うるさい隊長がいたとな」 「ああ、お前みたいにムカつく奴、忘れたくても忘れられねぇよ!」 「その威勢の良さ、是非戦場でも発揮してくれ」
その言葉を最後に、私は静かにテラスを後にする。クラサメ隊長と0組に何があったかは詳しくはわからない。だけど案外信頼関係が築かれているのだけはわかった。 目頭が熱くなってきた私は、足早にテラスから距離をとるのだった。
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