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 サイスさんと別れ(というか一方的にサイスさんが去っていったんだけど)私はナギのCOMMに通信を飛ばす。しかしやはり通信は繋がらず、どこに行ったのだろう、と頭を捻る。神出鬼没のナギのことだ、そのうちひょっこり出てきそうな感じはするけれど、それでも武官の通信に出ないのはおかしい。とりあえず魔導院の中を探してみよう。
 そう思った私は魔法陣に入り、武装第六研究所へと足を運んだ。

 武装第六研究所に着き、辺りを見渡すがナギらしき姿は見当たらない。ここにはいないのか、と魔法陣に戻ろうとしたとき私を呼ぶ声が聞こえた。


「メイさん!」
「!デュース、さん」


 振り返るとどこか安心したような柔らかい笑みを浮かべているデュースさんがいた。デュースさんは私に駆け寄ると眉を八の字にさせて口を開いた。


「もう身体は大丈夫なんですか?」
「身体…?あ、大丈夫大丈夫!もう全然平気!」
「そうですか…よかった…」


 胸に手をあてて安堵の息を吐くデュースさんに、心配かけてごめんね、と謝る。デュースさんは慌てて、わたしが勝手に心配してただけですから!と返してきた。


「あっ、でもまだ無理はなさらないでくださいね」
「うん…デュースさん、本当にありがとう」
「あ、い、いえ、わたしは何にもしてないですよ!」


 何にもしてないとデュースさんは言うが、何にもしてないわけがない。私や他の候補生を助けてくれた恩人なのにはかわりないのだ。
 そう念をこめてデュースさんに伝えると、デュースさんは頬を少し染めて照れ臭そうに笑った。その仕草がかわいくて、私まで顔がにやけてきてしまうがそれを我慢しながらそういえば、と話を切り出す。


「あのさ、デュースさん」
「?はい」
「ナギ…見なかった?」
「ナギさんですか?すみません、見てないです」
「そっか…」


 ここには来ていないなら次はリフレッシュルームに行ってみるか。そう思った私はデュースさんにお礼を言い魔法陣に向かおうとしたら、今度はデュースさんがあっ、と声をあげた。


「メイさん!メイさんはマキナさんを見かけませんでした?」
「マキナ?…ごめん、見てないや」
「そうですか…ありがとうございます」


 眉を八の字にさせて肩を落とすデュースさんが気になり、マキナがどうかしたのかと問い掛けたらデュースさんは顔を俯かせて口を開いた。


「マキナさん…最近姿を見かけません…」
「えっ、マキナが?」
「はい…授業にも顔を出さないんです…」
「………」


 あの真面目なマキナが授業に出ないのはおかしい。何かあったのだろうか。
 そう考えてふと帝都から逃げたときのことを思い出す。廃屋を出発するときまでマキナは戻ってこなかったが、戻ってきたときどこか雰囲気が変わったような気がした。そういえば私もあれからマキナには会っていない。どうしているのだろう。レムさんに心配かけさせていないだろうか。


「メイさん?」
「…マキナ見つけたら私からもなんか言っておくね」
「あ、はい、お願いします」
「うん、じゃあまたね、デュースさん」


 デュースさんに向かって片手をあげれば、デュースさんは微笑んで小さく手を振った。
 それを横目に魔法陣を起動させてリフレッシュルームを目指すのだった。