140
「あ、ナギ!と君はジャックだったよね」 「!トキト…」
一触即発な雰囲気の二人に話し掛けてきたのはトキトだった。トキトは二人のただならぬ雰囲気に二人の顔を交互に見て、邪魔だったかな?と遠慮がちに聞いてきた。ナギは髪の毛をかきあげてトキトに向き合い口を開く。
「邪魔じゃねぇよ。何か用か?」 「あぁ、いや、別に急いでるわけじゃないんだけどさ」 「?なんかあったのー?」
困ったように笑うトキトにジャックも首を傾げて問い掛ける。こんな自分たちによく話し掛けられたものだ、と感心もしていた。 トキトは頭をかきながら照れたように笑い話し出す。
「実は俺、エミナさんに思いを伝えることにしたんだ」 「エミナさんって…あのエミナさん!?」 「ジャックうるせえ」 「あはは、そう、あのエミナさんにさ。いつ死ぬかわからないから、後悔したくないって思って。言っておけばよかった、なんて悔やみたくないからさ」
そう言うトキトに、ナギは真剣な表情をしてトキトの話に耳を傾ける。ジャックは頭の後ろに両手を組んでトキトの話を聞く。
「でも、ちょっと困ってることがあってさ…」 「困ってることー?」 「あぁ」 「なんだよ、困ってることって」
そうナギが突っ込むとトキトは頬が少し赤くなり顔を俯かせる。そんなトキトにジャックは首を傾げ、ナギは腕を組んだ。
「彼女に贈る指輪を作ろうと思ったんだけど、肝心の石がなかなか手に入らなくて」 「指輪ー!?」 「ジャックマジでしばらく黙れ」
いちいちリアクションをするジャックに、ナギは顔をしかめて注意する。ジャックはムッとしながらも素直に口を閉ざした。
「それで?」 「あ、あぁ…こんなこと頼むのも恥ずかしいんだけど、彼女に贈る指輪のためにダイヤの原石を探してきてくれないか?」
申し訳なさそうに言うトキトにナギは顎に手をあてる。ジャックはジャックでダイヤの原石って言うからにはなかなか見つからなさそうだよねぇ、と他人事のように言う。 ナギはそんなジャックの腕を掴み、口を開いた。
「いいぜ、俺とこいつでダイヤの原石取ってきてやるよ」 「えっ!?」 「本当にいいの?」 「あぁ、困ってるときはお互い様、だろ?」
ニヤリと笑うナギにトキトは安心したのか微笑む。ジャックはナギの言葉に目を丸くさせてナギを凝視した。
「なっなんで僕まで!?僕は行かないよ!」 「最後まで聞いておいて何言ってんだよ。困ってるときはお互い様だって言っただろ」 「ナギが勝手に言ったんじゃん!」 「はあ…男のくせにあーだこーだうるせぇ奴だな。まぁお前来ないんなら俺もダイヤの原石使って指輪あげようかなーメイに」 「えぇ!?」
そう言って意地悪そうに笑うナギに、ジャックはカチンときたのか眉間にシワを寄せて掴まれている腕を振り払った。
「僕も行く!ナギより先にそのダイヤの原石見つけてやるもんねぇーだっ!」 「あ、コラ待て!」
そう言い捨ててジャックは魔導院の外に向かって走り出した。それをナギが慌てて追い掛けていくのをトキトは呆然と見つめるのだった。
|